”鉄頭”を刑務所送り 靖国神社落書き犯実刑も

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 靖国神社の石柱に落書きをしたのが確実視される中国の動画投稿者”鉄頭(铁头)”は、逮捕・起訴されれば実刑判決となる可能性はある。現在、警視庁が捜査を行なっているが、落書きは器物損壊罪(刑法261条)で法定刑は懲役3年以下、又は30万円以下の罰金と刑罰は軽いため、単独の罪では初犯であれば実刑になることは多くない。しかし、”鉄頭”は他の犯罪も犯している疑いが濃厚で刑務所送りになっても不思議はない。

◾️器物損壊罪一罪で実刑の難しさ

落書きをした動画での铁头(動画投稿サイトBiliBili画面から)

 中国の動画投稿者”鉄頭(本名・董光明)”は投稿された動画から、6月1日早朝に石柱に落書きをした人物であることは間違いない。靖国神社という国家のために命を落とした英霊を祀る場所への不届な行為は日本人の心を傷つけ、許し難いと感じた人は少なくないはず。その犯人を器物損壊罪(刑法261条)という軽微な犯罪でしか裁けないとしたら、司法への不信感が募ることは否めない。

 実際に高須クリニックの統括院長である高須克弥氏はXで以下のようにポストしている。

器物損壊なんて微罪ですむ問題ではありません。

日本人の誇りを辱しめられたのであります。

魂が汚辱されたのです。

僕は納得できません。

(2024年6月2日午後2時26分投稿

 器物損壊罪の場合、実刑となるパターンは多いのか。直近のデータはないが、平成14年(2002年)版犯罪白書で、さいたま地裁における判決の動向が調査されている。平成5~同13年(1993~2001)の器物損壊一罪のみの判決をみると、総数40で、罰金刑6、執行猶予付き有罪14、実刑は20で、実刑率は58.8%となっている(平成14年版犯罪白書・器物損壊と住居侵入の調査結果)。意外に実刑が多く感じるかもしれないが、この調査には累犯も含まれていると思われ、初犯であれば実刑率は低いと思われる。

 そうであれば、初犯が確実な”鉄頭(铁头)”は執行猶予付きの懲役刑、最悪の場合は罰金刑で済む可能性も考えられる。しかし、事はそう単純ではない。

◾️落書きの前に放尿の意味

 投稿された動画から、”鉄頭(铁头)”は落書きの前に、石柱に放尿している。この行為は礼拝所不敬罪(刑法188条前段)が成立すると思われる。現実に「墓地の入口においてその内部に向い暫時放尿する格好をした事実」が認められて、罰金1000円の有罪判決が出されている(東京高裁判決昭和27・8・5)。

 現実に石柱に放尿していれば、同罪が成立するのは間違いない。落書きの器物損壊罪との関係は併合罪(刑法45条前段)となり、法定刑が重い方の系の長期にその2分の1を加えたものが長期とされるため(刑法47条柱書き)、器物損壊罪の長期3年の1.5倍の4年6月。当然、実刑の可能性は高まる。前出の平成14年版の犯罪白書で器物損壊を含む数罪の判決の実刑率は67.6%となっている(総数74、罰金0、執行猶予付き有罪24、実刑50)。

 もっとも、放尿と落書きは一個の行為であり、それが二個以上の罪名に触れると考える「観念的競合」であれば、重い方の器物損壊罪の刑で処断される(刑法54条1項)ため、最高刑は懲役3年となってしまう。一連の行為を一個と見るか、二個と見るかの基準は「一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合」(最高裁大法廷判決昭和49・5・29)とされる。一個の行為と見られてしまう可能性はないわけではない。

◾️”鉄頭(铁头)”はなぜ上陸できた

 仮に落書きと放尿を一個の行為とみたとしても、”鉄頭(铁头)”の犯罪はそれだけではない。既に中国のサイトで明らかにされているように、中国で賭博場開帳の罪などで2年以上服役していたことが明らかになっている(参照・靖国神社落書き 中国動画投稿者”鉄頭” 前科あり)。

 そもそもそのような前科がある者が日本に入国できた事実が驚きである。中国は日本の査証免除の対象となっていないため、中国人が来日する際には査証(ビザ)が必要になる(在中国日本国大使館・査証(ビザ)申請関連情報)。

 過去に懲役1年以上の犯罪歴がある場合、査証を受けられないことがあるとされる(在中国日本国大使館・訪日査証Q&A)。”鉄頭(铁头)”が例外的に査証を受けられた可能性がないとは言わないが、おそらく、そのような事実を隠して入国したのではないかと思われる。その場合であれば、入管法に抵触する。

【出入国管理及び難民認定法】

5条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。

4号 本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。

70条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。

2号の2 偽りその他不正の手段により、上陸の許可等を受けて本邦に上陸し、又は第四章第二節の規定による許可を受けた者

 ”鉄頭(铁头)”が犯したとされる犯罪は賭博場開帳と違法拘禁罪で政治犯罪とは無縁。そのため入管法5条4号に違反し、70条2号の2で最高で懲役3年が科される可能性がある。この入管法違反と靖国神社での器物損壊罪は併合罪となり、最高刑は器物損壊罪・入管法違反の罪の長期3年の1.5倍の4年6月となる。そうするとやはり実刑判決が出されることが濃厚と言える。

◾️ネットに溢れる顔写真

靖国神社(2020年撮影・松田隆)

 捜査当局は当然、このような事情は把握しているはず。念の為、捜査をしている警視庁に架電し、”鉄頭(铁头)”が中国で1年以上の懲役刑を受け、入管法に違反して上陸した可能性があることを伝えた。

 麹町署の職員の方が対応してくれたが、「もうご存知だと思いますが、犯人の董光明は…」と言って上記の内容を伝えると、「こちらでも捜査をしていますので。ありがとうございます。」と丁寧にお礼を言われた。話ぶりから、当然、上陸の経緯も把握しているように聞こえた。

 ”鉄頭(铁头)”がまだ日本にいるのか分からないが、ネット上では顔写真が多数出ており、逃げるのは簡単ではない。もし、国内にとどまっているようであれば、近日中にも身柄を拘束されるのではないかと期待している。

    "”鉄頭”を刑務所送り 靖国神社落書き犯実刑も"に1件のコメントがあります。

    1. 匿名 より:

      礼拝所不敬罪も合わせて断罪できないのだろうか。こんな奴が愛国無罪とばかりに中国国内では賞賛される狂った社会なのだ。
      以前にも靖国で祖父と孫娘が不敬な行為をした。
      動画配信で稼げれば倫理など無視する連中。
      日本人として強い怒りを覚える

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です