台湾先住民強い 柔道銀と金有力”舉重女神”
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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東京五輪柔道男子60キロ級で銀メダルを獲得した楊勇緯選手の快挙に、台湾中が歓喜に包まれました。楊選手の活躍は、マイノリティである台湾先住民の誇りとしても報じられています。国際スポーツ競技の場での台湾先住民アスリートの活躍は、10年越しの育成プログラムの結果でもあります。
■台湾柔道界の歴史を塗り替えた楊勇緯選手の快挙
台湾(チャイニーズタイペイ)代表の楊勇緯選手が東京五輪柔道男子60キロ級で銀メダルを獲得しました。台湾代表としてのメダル第1号、そして台湾柔道界に史上初のメダルをもたらした楊選手の快挙に台湾中が喜びと興奮に包まれました。試合直後からネットはSNSを中心に「恭喜 (おめでとう)」「讚 (素晴らしい)」と祝福の声や「眼淚掉下來了 (涙が溢れた)」「看得熱血沸騰 (見ていて血がたぎった)」と健闘を讃えるコメントで埋め尽くされました。
今回銀メダルを獲得した楊選手には「国光奨金」として政府から700万元(約2800万円)の特別ボーナスが贈られます。銅メダルの場合500万元(約2000万円)、金メダルでは2000万元(約8000万円)とされており、楊選手の銀メダル獲得には「可惜 (惜しい)」「下次要奪2000萬 (次回は2000万元目指そう)」と、あと一歩で8000万円を逃したことを惜しむ声が挙がっていました(コメントはFacebook、台湾Yahooニュース、ツイッター)。
息子の快挙、メダル獲得の知らせを受けて楊選手の母親は、メディアのインタビューに対し「感謝他找到自己的路,找到自己的目標, (息子が自らの歩む道と己の目標を見つけたことに感謝している)」と、喜びの声で応えました。また自身もかつては柔道選手であったせいか、楊選手の快挙が「讓世界看見台灣柔道 (世界に台湾の柔道を知らしめた)」と述べました(自由時報 2021年7月24日)。
台湾メディアは楊選手の銀メダル獲得を「創台灣柔道紀錄 (台湾柔道の新記録を生み出した)」(中国時報 2021年7月24日)「寫下隊史最佳紀錄 (柔道代表の最高記録を記した)」(MIRRORMEDIA 2021年7月24日)と一斉に報じました。そして台湾先住民パイワン族の血を引く楊勇緯選手を「排灣勇士 (パイワンの勇士)」と紹介(聯合新聞 2021年7月24日、ETToday 2021年7月24日など)、銀メダルの快挙を「排灣族之光 (パイワン族の光)」(NOWNEWS 2021年7月24日)「排灣族的驕傲 (パイワン族の誇り)」(民視新聞網 2021年7月24日)と、台湾社会のマイノリティである台湾先住民の活躍とする論調の記事もニュースも多く見かけます。
■スポーツ界で活躍する台湾先住民
台湾社会は漢民族(内省人と呼ばれる泉州系や漳州系、客家系、第二次世界大戦後台湾へ移住した外省系)、台湾先住民、新住民(外国籍の台湾人配偶者)から構成されています。このうち漢民族は約2210万人、全人口の約96%と大部分を占め、台湾先住民は約57万人で約2%、新住民が約56万人で約2%となっています。
先住民はアミ族、タイヤル族、パイワン族、ブヌン族、プユマ族、ルカイ族、ツォウ族、タオ族、サオ族、カヴァラン族、サイシャット族、タロコ族、セデック族、サキザヤ族、カナカナブ族、サアロア族 の16族(政府認定)から構成されています(中華民國行政院「國情簡介」『土地與人民』)。
全人口のわずか2%、約57万人の台湾先住民ですが、台湾では一般的に「先住民は身体能力が高い」とみなされており、実際のところ台湾スポーツ界で活躍するアスリートには台湾先住民の血を引く選手が多くいます。過去には台湾プロ野球リーグ初となる2000本安打の記録保持者張泰山氏(アミ族)や、日本のプロ野球で活躍した郭源治氏(アミ族)がいます。現役では読売ジャイアンツ所属の陽岱鋼選手もアミ族の血を引いています。
そして国際競技の場で活躍する現役台湾アスリートも台湾先住民が多くいます。これは東京五輪の台湾代表団の構成にも表れています。台湾代表選手数66名、うち15名は台湾先住民です (アミ族7名、パイワン族3名、ブヌン族2名、タイヤル族2名、ツォウ族1名)(中央廣播電台2021年7月8日)。
この中には、東京五輪金メダル最有力候補と目される「舉重女神 (ウエイトリフティングの女神)」郭婞淳選手(アミ族出身)や、メダルの期待がかかる「拳擊女王 ボクシングの女王」陳念琴選手(ブヌン族出身)、そして台湾柔道界の歴史を作った楊勇緯選手がいます。全人口のわずか2%の台湾先住民が台湾代表選手数66名のうち15名と約22%を占めていることから、台湾スポーツ界における台湾先住民アスリートの占める重要性がわかります。
■27日にも台湾の金メダル第1号誕生か
そして今日の活躍には、「台湾先住民アスリート養成プログラム」が背景にあります。このプログラムは、ウエイトリフティング・柔道、アーチェリー、ボクシング、テコンドー等10種類の競技種目において優秀な台湾先住民アスリートを育成するためにタイヤル族出身の高金素梅立法委員の主導の下に2011年から行われており、近年優秀な台湾先住民アスリートを数多く輩出しています。
今回の東京五輪参加選手11名が、このプログラムを通じて育成されました(STORM MEDIA 2021年7月26日)。
27日にはいよいよアミ族の期待の星である郭婞淳選手がウエイトリフティング女子59kg級に登場します。
「スナッチ」「クリーン&ジャーク」「トータル」三種目世界記録ホルダーの郭選手には、台湾中から期待の眼差しが注がれています。台湾金メダル第1号、奨金8000万円獲得一番目となるのでしょうか。