”金滿貫”に台湾熱狂 強すぎた舉重女神

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 東京五輪ウエイトリフティング女子59キロ級で郭婞淳(かく・こうじゅん)選手(台湾)がトータル236kgの五輪記録で金メダルに輝きました。今大会の金メダル第1号に台湾は喜びに包まれました。同選手は国際競技大会グランドスラムを達成、金メダルは当然の重圧を克服しての頂点です。膝の大ケガから立ち直った不屈の闘志にも称賛が集まっています。

■歓喜の台湾 仕事も一時中断

郭婞淳選手を応援する家族(TVBS画面から)

  台湾時間午後2時50分(日本時間同3時50分)から行われたウエイトリフティング女子59キロ級の試合には今大会の金メダル最有力候補「舉重女神 (ウエイトリフティングの女神)」郭婞淳選手が出場し、多くの人が試合の行方を追いました。

 ポータルサイトでは試合経過がリアルタイムで伝えられ「加油 (頑張れ)」の声援が休みなく投じられていました。私はテレビ番組のオンライン収録に参加中だったのですが、郭選手がスナッチ103キロを決めてからは番組ディレクター(元陸上競技選手)自らが「郭選手の活躍を見届けよう」と呼びかけ、競技終了まで収録が一時中断されました。

 ジャークの1本目で125キロに成功し金メダルが確定した途端、司会者やゲスト、スタッフからは大歓声が湧き起こりました。中でも最も喜びを露わにしていたのは勿論このディレクターで、収録再開後も歓喜のあまり泣き出してしまったため、彼の感情が鎮まるまで再度の中断に。

 その後も私を含め全員が興奮冷めやらぬ状態で再開したため、妙にハイテンショな収録となりました。

 また、選手の地元・台東市では、郭選手の母親らがテレビの前で応援。金メダルに熱狂する様子が、報じられました。

■舉重女神の歩み 左足の大ケガを乗り越えて

金メダルを獲得した郭婞淳選手(東森新聞画面から)

 郭選手は多くの優秀なアスリートを生み出している台湾先住民アミ族出身です。小中学校時代まで陸上やバスケットボールをしていた彼女は、中学3年時にウエイトリフティングへ転向、2011年に教育部「台湾先住民アスリート養成プログラム」に参加、以降頭角を現していきます。

 2013年にはアジアウエイトリフティング選手権及び世界ウエイトリフティング選手権で金メダルを獲得しました。しかし、その後の躍進が期待されていた矢先の2014年5月に右大腿筋の70%を断裂する大怪我を負います。長期の車椅子生活とリハビリテーションを余儀なくされ一時は引退も考えていましたが、コーチ、スタッフ一同の支えと本人の意思と努力によって再び世界大会の舞台へ舞い戻り、2016年のリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得します。

 完全復活を果たした後2017年と2019年にもアジアウエイトリフティング選手権及び世界ウエイトリフティング選手権で再び金メダルを獲得。今年4月のウエイトリフティングアジア選手権女子59キロ級3種目中2種目で世界記録を更新、同大会で3つの金メダルを獲得という快挙を達成しました。女子59キロ級スナッチ・クリーン&ジャーク・トータルの3種目世界記録ホルダーとしての輝かしい功績から、台湾では「舉重女神 (ウエイトリフティングの女神)」と称賛されてきました。

 国民の期待を一身に背負い臨んだ東京五輪ではトータル236kgの五輪記録を打ち立て堂々の優勝を果たしました。2位のポリーナ・グリエワ選手(トルクメニスタン)に19kg差、3位の安藤美希子選手(日本)に22kg差をつける圧倒的な勝利です。

 選手生命に関わる大怪我を克服し東京五輪での悲願の金メダル獲得。メダル授与の際に感極まり涙を浮かべた郭選手は、インタビューで来日後左大腿があまりよい状態ではなかったと吐露。試合前には「就剩下這場比賽了,拼一拼。結束後好好休息,千萬別放棄  (この試合だけだから、 踏ん張って。終わったらゆっくり休もう、だから諦めないで)」と自身の左足に言い聞かせていたということです (中國時報紙面2021年7月28日付紙面)。

 そして郭選手の活躍は、10年間実施されてきた「台湾先住民アスリート養成プログラム」が実を結んだと言えるでしょう(参照:台湾先住民強い 柔道銀と金有力”舉重女神”)。

■「金滿貫」グランドスラム達成に絶賛の台湾メディア

郭選手の金メダルを伝える台湾各紙(撮影・葛西健二)

  郭婞淳選手悲願のオリンピック金メダル獲得に台湾中から歓喜の声が挙がりました。台湾メディアは金メダル決定直後からこの歴史的快挙を「完成金牌最後一塊拼圖  (金メダル最後の1ピースを揃えた)」(MIRRORMEDIA 2021年7月27日)等、アジア競技大会、アジアウエイトリフティング選手権、世界ウエイトリフティング選手権、ユニバーシアード各大会での金メダル、そして今回のオリンピックの金メダル獲得により、国際競技大会の「 (金メダルのグランドスラム)」を達成したと、その偉業を讃えています(中國時報2021年7月28日付紙面、聯合報2021年7月28日付紙面、東森新聞 2021年7月27日NOWNEWS 2021年7月27日)。

 また「阿美族長女的氣魄 (アミ族長女としての気概)」として台湾社会のマイノリティである台湾先住民の活躍とする報道もありました(MIRRORNEWS 2021年7月27日)。

 今回金メダルを獲得した郭選手には「国光奨金」として政府から2000万元(約8000万円)の金メダルボーナスが贈られます。彼女が特別奨金第一号となったこともニュースとして取り上げられ (自由時報 2021年7月27日)、ネットユーザーからは以下のような声が寄せられました。

辛苦值得了 (苦労した価値があるよ)

好辛苦才拚到2000萬? (こんなに大変なのに2000万元?)

奬金三千萬都沒關係 (3000万でも全く問題ない)

付得開心 (喜んで(自分の税金から)出そう)

 郭選手の努力と功業には特別手当支給が妥当、むしろ足りないぐらいだ、といった声が多く寄せられています(コメントは台湾Yahooニュースフェイスブックから抜粋)。

■五輪で大躍進の台湾代表 メダル獲得数歴代最多に

 台湾の金メダル獲得は2016年リオデジャネイロ大会ウエイトリフティング女子53キロ級、2012年ロンドン大会の同48kg級の許淑浄選手、2008年北京大会の陳葦綾選手(同48kg級)、2004年アテネ大会のテコンドー、陳詩欣選手(女子49kg級)、朱木炎選手(男子58kg級)に続く5大会連続、通算6個目です。

 同時に、今オリンピックの台湾代表獲得メダル数は6となりました(金1銀2銅3)。これは2004年のアテネ大会の5個(金2銀2銅1)を上回る史上最多です。

 大会開始から5日目での記録更新に、人々の関心と興奮は高まる一方です。自国代表選手の大活躍に、台湾は前回リオデジャネイロ大会以上に盛り上がっています。

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