23年後のサバイバー 若松泰恵(3) 薄氷踏む日々

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 今でも根強いファンがいる「サバイバー」(TBS系)の出演者のその後を追うシリーズ、若松泰恵氏(50)の第3回をお届けする。誰とも連係せず、独立系として無人島での戦いを続け、2度の追放審議会で1票も投じられることなく生き残った若松氏であるが、独立系ゆえに標的にされるようになる。生き残りのための厳しい局面へと進んでいく。

◾️追放する側から追放候補へ

ハートFMで生放送を終えてスタジオを出る若松氏(撮影・松田隆)

 2度の追放審議会は若松氏の投票が運命を分け、佐藤徳一氏(当時23歳=無職)、春日尚氏(当時34歳=サラリーマン)の2人がともに1票差で島を去った。ベケウチームは残り6人。ここまで追放する側であった若松氏であるが、15日目に行われた追放免除チャレンジ「ファイアートライアスロン」以後、立場が危うくなる。

 ファイアートライアスロンは、浜辺に設定された全長150mのコースで4種目の競技をリレー形式で行うもの。①計算問題ー②2人1組でバラバラの竹筒を一本にして運搬ー③2人1組で長下駄を履いて前進ー④ドラム缶で火を起こして松明に点火、それをもって点火台に火をつける、という流れであった。なお、それぞれの走者には決して手を貸してはならないと番組で紹介されていた。

 ゲームはベケウチームが勝利したが、そこにデレブチームから抗議が入った。最後の火起こしで、メンバーが手を貸したというのである。番組側が撮影した動画を確認した結果、チャレンジは一転デレブチームの勝利となり、ベケウチームは翌日の審議会で追放者を出さなければならなくなった。この時、アンカーに手を貸し、反則負けの原因を作ったのは主に若松氏であった。番組内で「ルールもちゃんと頭に入っていたはずだけど、でも、興奮しちゃって、もう手の方が先に出ちゃってて、ゲームに対する勝ちへの執念とか以前にそういうルールへの認識が、すごい私は甘かったし…」と沈んだ表情で語っている様子が放映された。

 この時点でチームは男性2人が追放されており、残る男性は2人に対して女性は4人。平井琢氏(当時26歳=リバーガイド)は男女間に溝があることを明らかにしており、このまま男女対決になれば高波邦行氏(当時23歳=ボクサー志望)が標的にされかねない。高波氏から若松氏に対してアプローチがあり、ここで男性が落とされたら体力勝負になりがちな追放免除チャレンジで不利になり、さらなる追放者を出すことになりかねないと、女性陣から追放者を出すよう、暗に促すシーンが放送された。

 さらに若松氏が石毛智子氏(当時25歳=帰国子女)と2人で会話をしている場面も放映され、そこで若松氏は「勝ちにこだわってるから、私は多分。勝てるメンバーを残す」と話している。

◾️追放審議会で『ワカ追放』2票

 こうして迎えた追放審議会では男性2人と若松氏、そして平川和恵氏(当時31歳=主婦)の4人が運動能力で若干劣ると見られる石毛氏へ投票し、追放する。一方で、石毛氏と渋谷美奈氏 (当時19歳=女子大生)は若松氏に投票し、若松氏は島に来て初めて追放対象として投票されることとなった。

 石毛氏と渋谷氏が若松氏を狙った理由は分からないが、この後のチャレンジを考えると男性は残さざるを得ない。そうなると女性3人とは関係の薄い独立系の若松氏を狙うのは当然の選択である。まして、若松氏は石毛氏に直接「勝てるメンバーを残す」と言っており、石毛氏にすれば「あなたに投票する」と言われたと感じた可能性はある。

 若松氏は当時を振り返り、「『あなた(石毛氏)に入れるよ』というよりも、私の中のルールですがチーム戦なのでチャレンジに勝てるメンバーを残すということです。それは他のメンバーにも言っていましたから」と言う。要はいつもの一般論を語っただけとする。

ベケウチームの人間関係

 23年後の今、話を聞く限り、当時は微妙なコミュニケーション上のすれ違いがあったように感じる。それは若松氏が表と裏を使い分けるようなタイプではなく、真っ直ぐな性格であることが影響しているように思う。若松氏は、チャレンジに負けると1人落とされるという厳しい現実に直面した時などに、重要な目的のためには目の前の人に対して自らの本音を覆い隠して人間関係を良好に維持するような行動はとらない人なのであろう。取材を通じてそうした一本気な性格は十分に感じ取れた。

 そんな若松氏にすれば考えていることを口にするごく当たり前のことであるが、それによって石毛氏が(男性陣と若松氏は自分に投票してくる)と解釈したのではないか。少なくとも筆者にはそう感じられた。

 最終的に平川氏も石毛氏に投票して4対2で若松氏は生き残った。ここまでの3回の若松氏の投票行動を見ると、同盟関係を築いて戦略的に人を落としていっていないことは見て取れる。実際、女性3人(平川氏、渋谷氏、石毛氏)のグループとは若干、距離を置いていたように見える。

 若松氏に女性3人との関係を聞くと、あまり覚えていないとしながらも「3人とは深い話はしていないかも…です」と特に濃厚な関係にあったわけではないとする。とはいえ、放送されていた内容と実態には若干の差異があるとする。

 「現地では平川さんが石毛さんと美奈を囲い込んでいるという感じはありませんでした。(撮影スタッフは)女性3人が話をしているところを撮って、私1人のところを撮ってみたいなことが多かったですが、撮っていない時間には私が平川さんと喋ったり、ゲッチ(石毛氏)や美奈と喋ったりというのは日常的にありました。ですから、3対1の構図になっている、孤立している感覚はありませんでした。そう見えるように(取材クルーが)素材を集めていたとは思います。テレビ局的にはこういうシナリオでいきたいというのがあったのでしょうね。」

 実際に平川氏はこの時は石毛氏に投票していることを思えば、当時のベケウの6人の人間関係は、若松氏の話すことが実態に近いように思われる。

◾️逆転で残留、合流へ

 こうして5人になったベケウチームであるが、チーム戦最後の追放免除チャレンジでも敗れ、さらに1人追放しなければいけなくなった。この投票を最後にチームは合流するため、「チャレンジに勝てるメンバーを残す」という理由は消滅しており、追放のターゲットとなり得る若松氏が追放者を選ぶ理由は、自らが生き残るためということを大前提として考えなければいけない状況となっていた。

 チーム内で男女間の溝があったのは確かで、若松氏の1票を取り合う可能性は引き続きあるものの、独立系の若松氏追放で男女間で折り合う可能性もまたあった。実際、前回の審議会で若松氏は2票投じられ、そのうち1票を投じた渋谷氏は残っているだけに、若松氏としては、当然危機感を覚える。

 ここで若松氏が他のメンバーと積極的に会話を交わすシーンが多く放送された。そこで平井氏から平川氏追放の相談を持ちかけられる。若松氏がそれに乗るのは当然としても、平川氏と渋谷氏が自身に投票してくることは予想され、残る男性1人・高波氏がそれに乗れば追放されてしまう。そこで高波氏と直接、話をすることにした。ところが、率直に「自分の身を守りたい」という若松氏に対して高波氏からは「オレは別にワカのことを守ってやろうとは思わない」という厳しい答が返ってきた。

 「審議会に行く前は多少、焦っていました。(高波氏と)事前に話をした時に『えっ!? 嘘でしょ?』『私の名前を書く気なの?』と思ったので。女子2人が狙うのは私でしょうから、『高波君が私の名前を書いたら落ちるのか』みたいな考えはありました。それまでは男子2人は平川さんの名前を書くと思っていました。姉さん(平川氏)とタク(平井氏)や高波君が仲良しには見えなかったものですから」。

 こうして生き残りへの確信を得られないまま若松氏は審議会の会場へと向かう。投票の結果は5票のうち3票が開いた時点で若松氏2票、平川氏1票。残る2票のうち1票でも入っていたら若松氏の追放が決まる。しかし、そこから2票続けて平川氏の名前が書かれており、逆転で若松氏の残留が決まった。

◾️累積4票をもって合流

帰国後の出演者(若松泰恵氏提供)

 23年前を振り返り、若松氏は言う。「後で放送を見た時に、もっと平川さんと仲良くしておけばよかったのかなとは思いました。『あそこであの人ともうちょっと仲良くしておけば、協力してくれたかな』という感じです。でも、それは放送で自分がいない場所で行われた話などを聞いたら、そう思うということであって、現地ではそういうことは分かりません」。

 同盟を結んで集団の一員として行動するのではなく、独立系として行動するのはその場、その時での適切な判断が求められる。他者とのしがらみがないのは気楽ではあるものの、ターゲットにされた時は守ってくれる仲間がいないだけに脆いというデメリットを抱える。終盤のチャレンジでチームが2連敗という厳しい状況の中、独立系として2度の審議会を切り抜けたのはお見事と言うしかない。

 最後は1票差で残る際どい勝負を生き残り、累積票4票を持って合流することになる。

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23年後のサバイバー 若松泰恵(4) 友情の舞台裏 へ続く

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