原発で分かれた明暗 電気料金値上げ
石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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四国と沖縄の大手電力2社が11月28日、規制された電力料金の値上げを経済産業省に申請した。今後も電力会社の値上げ、新電力の経営悪化と値上げが続きそうだ。それがどうも周知されていないため、この記事で現実を取り上げたい。(元記事は&ENERGY・原子力で明暗、電力会社値上げー沖縄電4割超、月5900円上昇と突出)
◆エネルギーニュースを書けない?メディア
「【速報】驚きました。沖縄の電気料金、約4割の値上げ申請です。」(沖縄タイムスTwitter)
11月28日に沖縄タイムスのツイッターがこのように書き込んだ。すぐに炎上した。「事前に値上げは予想できた。解説を発表前にしていないのは取材・勉強不足だ」「驚くのではなく、批判するのではなく、メディアなら分析しろ」。こんな叱責がこのツイートの返事で続いていた。人々の意見の通りだろう。
沖縄のメディアは「それらを見ると朝日新聞が右翼新聞に見える」と言われるほど偏向し、日本とアメリカへの批判ばかりだ。ところが必要な情報を適切に伝えない。Twitterの後で出た沖縄タイムスの電力値上げの記事も表面的で分析が足りなかった。同社だけではなく、沖縄のメディア各社は、検索すると、沖縄電力が値上げを予告していたこと、全国で騒ぎになっている電力料金上昇、それが沖縄でも起こることも事前にほとんど伝えていない。沖縄のメディアだけで情報を仕入れていたら、経済無知、情報弱者になってしまう。沖縄県民が気の毒だ。
いや、東京のメディアも、沖縄メディアと伝える情報の質の低さは大して変わらない。問題の本質である原子力の活用の是非を強調して伝えていないからだ。以下の事実を知ってほしい。
◆規制上限を突破したエネルギー価格の高騰
電力会社は、ウクライナ戦争の前からの世界的な化石燃料の上昇、さらに円安の進行で原料費が高騰している。日本では2012年から電力自由化が進んだ。家庭用の低圧料金では規制を残した。原材料の価格を反映させる「燃料費調整制度」により電力料金が決まる。その上限を大幅に上回ってしまった。そのために、水準そのものを引き上げる値上げが必要になった。
燃料費調整制度とは「事業者の効率化努力のおよばない燃料価格や為替レートの影響を外部化することにより、事業者の経営効率化の成果を明確にし、経済情勢の変化を出来る限り迅速に料金に反映させると同時に、事業者の経営環境の安定を図ることを目的とし、平成8年1月に導入されました。」(資源エネルギー庁・燃料費調整制度について)というもの。
各電力会社では、調整上限に達し燃料費の超過分を自社で負担しなければならない状態が続いていた。その見直しを申請して、燃財務状況の悪化に歯止めをかける狙いがある(沖縄電力・電気料金の値上げ改定について)。
同社は22年度決算で、2619億円の売り上げのところ、485億円の赤字だ。来年度値上げをしなければ経営破綻しかねない。
値上げ申請では、四国電は標準的な家庭の月額料金は現行比27・9%値上がりの1万120円とする。沖縄は40.93%の値上げを申請。標準的な家庭の電気料金は同39.3%値上がりし1万2320円となる。上昇は月5900円になる計算だ。沖縄は高圧分野(産業向け)にも規制が残っており、こちらは50.02%の大幅値上げだ。沖縄電は2008年以来の料金改定。2012年に吉の浦火力が運開したため、今回初めてLNG火力が電源構成に加わったが、影響は限定的だ。この値上げは沖縄経済にダメージを与えていくはずだ。
◆各社の値上げの違いは原子力の稼働次第
2社の値上げ幅を分けたのは、原子力発電所の存在だ。四国電は伊方原子力発電所3号機を2024年初頭に稼働することを織り込む。11月初頭に値上げ申請した東北電、中国電はそれぞれ30%の値上げ申請となった。両社は今、原子力を動かせていないが、2023年度中の稼働を目指して、料金申請に反映させた。原発が稼働している関西、九州は今のところ値上げを表明していない。原発を稼働させていない東京、中部、北陸の各電力会社は近く申請の見込みだ。
各電力会社の原発は、原子力規制委員会の過剰規制で止まっている。そして火力発電に依存している。その原材料となるLNGと石炭、石油は価格がウクライナ戦争前後から国際価格が上昇し、さらに円安で円建て価格も上昇した。沖縄電は供給力の95%を火力に依存。そのために同社は40%強と他社と比べて大幅な値上げに踏み切らざるを得ない状況だ。
もちろん、沖縄電力は本土の電力網と切り離されているため、他社からの電力調達ができない問題もある。このため米軍統治時代から、復帰後まで原子力発電の導入が検討されたが結局実現しないまま今に至る。
◆岸田首相の価格抑制策は無駄-原子力の活用を考えよう
電源構成の違いが電気料金の地域間格差を拡大することになりそうだ。11月2日に&ENERGYの「効果ない電力料金抑制策-値上げで相殺の見込み」で伝えた通り、岸田政権が10月発表で打ち出した1世帯3000円前後、そして総額今年度推定2兆円の電力価格抑制策は、こうした値上げで1カ月で相殺されてしまう。各社値上げは継続する見込みで、沖縄など原子力発電を使えない地域での国民生活の負担は継続するだろう。
原子力発電の活用、再稼働の遅れが続いている。事情を知る人が以前から警告した通り、そして反原発を唱える人たちが無視した情報だが、原子力が使われないまま化石燃料が急騰し、家計を直撃する状況になっている。原子力発電を日本の電力会社が作ってきたのはこうした事態に備えるためで、一部左派政治勢力の言うように決して利権などではないのだ。現実を見て、原子力の使い方をもう一度考え直すべきだろう。
原子力だけを使えという意味ではない。それを含めたバランスのある電源を作り、安く、安全で、環境に適切なエネルギー政策を作り出すことを追求するべきだ。
※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「原子力で明暗、電力会社値上げー沖縄電4割超、月5900円上昇と突出」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。