「手觸りは倍増した視覚は享受した」台湾に溢れる日本語と”差不多”精神
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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前回、台湾のマンションに日本語の固有名詞が使われている事情を紹介いたしましたが、台湾の街には日本語があふれています。日本語のイメージの良さから使用されるのでしょうが、間違いが多く、日本人として思わず苦笑させられてしまうことは少なくありません。そこには台湾文化に根付く「差不多」精神が関係していると言っていいでしょう。
■日本語は「上質」「おしゃれ」というイメージ
台湾では日本語が「上質」「おしゃれ」「かわいい」といったイメージで使われています。そして台湾で今や普通に使われている文字、それが格助詞としての「の」です。格助詞の「の」(私の~ など)は中国語に翻訳する時は「的」を使うのが普通ですが、「文字が可愛い」という理由から商品名や広告では「的」の代わりに「の」が使われるのをよく見かけます。
人々も「的より画数が少なく簡単」という理由から中国語の文章を書くときにも「的」の代わりに「の」を使っています。中国語に取り込まれた日本の文字、とても面白い現象です。例として台湾で有名なヨーグルト(写真)を見てください。本来「的」であるところが「の」に置き換えられています。
日本人が助詞を英語で代用することなど考えられません。「その中の1つ(one of them)」と言う時に、「その中オブ1つ」と言う人などいないでしょう。そう考えると中国語に入り込む日本語の形態は独特なものだと感じます。
■「超~」も中国語化 超超超いい感じ~が通じる?
日本ではあまり知られていないかもしれませんが、19世紀以降、和製漢語が大量に中国に流入しました。主に欧米の概念などを日本語に翻訳した漢語で、例えば「思想」、「法律」、「物理」などです。実は「共産主義」もその1つ。かつて抗日を叫んでいた中国共産党ですが、その名前が日本由来と思うと笑えるものがあります。
この和製漢語の流入は現在でもあり、最近では「写真(本来は相片)」「女優(本来は女主角)」「超~(本来は超級)」などの語彙です。
これらは同じ漢字圏の文化として取り入れられ、特に違和感なく使用されていますが、台湾の街中で見かける日本語には、意味の通じない、正直、わけのわからない間違った日本語が多く存在します。
写真にあるように、「美味しい」→「美味いし」(おいいし?)などは可愛いものです。
「味覚は新し<体現してぃる」も、何となく分からないでもないですが、
「手觸(触)りは倍増した視覚は享受した」になると、もうお手上げです。
こうした日本語を見ると、順序の間違いや長音符や拗音の規則がわかっていないなど、明らかに日本語を知らない者が作成したものと思われます。このような「似非日本語」は台湾の至る所で目にします。
■意味ではなくイメージアップの記号としての日本語
日本語を意味ではなく「イメージをアップする記号」として捉えているため、このようなわけのわからないものができあがるのだと思います。そして私はここに台湾人の「差不多」精神が現れていると感じます。
上述の日本語の間違いは、とても単純なものです。制作者が日本語を解していないのならば作成の段階で、日本語を学んでいる人にチェックをお願いする方法を取るべきでしょう。少なくとも街中に多く存在する日本語会話スクールの下で日本語教師をつかまえて聞くなり、中国語の語学センターの前で日本人留学生に見てもらうなど、もう1ステップあればしっかりとしたものが出来上がるはずです。
そう考えると私はとても残念に思いますし、この1ステップを経ずに「これで良し」としてしまうのが、台湾人がよく口にする先ほどの「差不多」精神の表れだと考えます。「差不多」とは「『差』が多くない=だいたい同じ、ある程度同じ」という意味で、台湾の人が常時使用する言い回しです。
台湾の人と仕事などをする時に、多くの日本人が「いい加減だ」と感じる場合は、この「差不多」の考えのためというケースが少なくありません。もちろんこれには良し悪しはあると思います。時には根を詰めすぎず「差不多」もいいのかもしれません。しかし台湾で20年を経た今でも、時には「その『差』をもっと少なくして」と思うことがあります。これは文化の違いと諦めるしかないのでしょうか。どうでもいいように思われますが、結構、深刻に考えてしまいます。