台湾有事に備え防空演習 感じる中国の脅威
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
最新記事 by 葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼 (全て見る)
- 台灣隊前進東京 ”12強賽” 初の4強に熱狂 - 2024年11月19日
- 台湾はワクチンの恩忘れず 能登半島地震「義氣相助」 - 2024年1月28日
- 大谷選手めぐり台湾の記者”出禁”騒動 - 2023年7月9日
台湾では7月14日に恒例の防空演習が行われました。1978年に始まったもので、年に1回「万安演習」という名称で実施されています。この演習は「台湾にミサイルが飛来」した場合を想定し、軍が主体となって行われるものです。毎年訓練が行われる度に、台湾の実力支配を公言する中国・中国共産党の存在・脅威を私はあらためて意識させられます。
■サイレンで始まる演習 従わないと罰金
演習の時間は午後1時30分から同2時までの30分間、実施時間中は警察による住民、車両等に対する避難指示や交通規制が行われます。屋外では車両のエンジン停止、屋内への退避、地下鉄では乗客は駅構内に待機して係員の指示に従わなければなりません。指示や誘導等に従わなかった場合には法令に基づき3万~15万元(約11万円~55万円)の罰金が科せられます。
防空演習は街中に鳴り響くサイレンの音で始まります。実施時間30分間、普段賑やかな昼間の台北が静まりかえり、不思議な光景が出現します。これまでに何回か屋外移動中に防空演習の時間と重なったのですが、サイレンが鳴ると周りの車やバイクは路肩へ寄せエンジンを切らなければなりません。そして歩行者やドライバーは路上に等間隔に立っている警察官の誘導に従い歩道端へ速やかに移動しなければなりません。
なお屋内待避が原則ですが、騎楼(台湾に多くある歩行空間。道路に面する1階部分を人が通るための半屋外にし、それが連続することでアーケードのような屋根を持つ歩行空間ができる)で待機していても問題ありません。待機している人はスマホをいじったり、おしゃべりをしたりと、のんびりと時が過ぎるのを待ちます。30分後に再びサイレンが鳴り渡り演習終了、皆さっさとエンジンをかけ出発、待機していた人も急ぎ足、普段通りの台北午後2時の喧噪が戻ってきます。
今年度の防空演習「万安43号演習」は7月14日の午後1時30分から同2時までの間、台湾全土で一斉に行われました。今回の演習は新型コロナウイルスの影響で訓練内容が簡素化、避難指示や交通規制等は行われず、年に一度の「静寂の30分間」を目にすることはありませんでした。
■台湾の建築物地下室は防空避難所
台湾では民間マンション・アパート以外の建築物地下室は有事の際に防空避難所して使用されるよう規定されています。規定対象の建物入り口には黄色に「防空避難処所」と記された大きなステッカーが貼られています。台北の地下鉄構内も必要時には防空避難所となるよう作られており、2014年に建造された松山線「北門駅」は最も深く、地下32メートルに位置しています。
また、政府機関等の重要な建築物には防空トンネルが備わっているとのことです。その中でも海外の要人が多く利用・宿泊してきた五つ星ホテル圓山大飯店、このホテルは収容可能人数が最大1万3000人という巨大な地下防空壕を備えているのですが、それ以外にも要人脱出用の「秘密のトンネル」が存在する、と昔から噂されてきました。
このトンネルは近くにある士林官邸(蒋介石元総統夫妻の官邸)や故宮博物院、さらには6kmも離れた松山空港まで繋がっているのでは、といった憶測がなされていたのですが、昨年9月、その噂のトンネルの一部が予約制期間限定で公開されました。公開されたのは圓山大飯店地下にある「防空避難通道」と呼ばれる防空避難トンネルで全長約85メートル、隣接する剣潭公園に繋がっています。この一般公開には噂のトンネルを一目見たいという人からの申し込みが殺到、大きな話題となりました(遠見2019年8月30日の記事から)。
■日本にも必要な更なる防空意識
上述のように、台湾では緊急時における公的機関のシステム作動確認、人員の組織訓練、そして国民の安全意識の維持と向上を目的に定期的に防空演習が実施されています。また国民が速やかに避難できる地下防空壕が充分に存在しています。最近は中国の南シナ海や東シナ海での軍事行動が増加しており、「中国による侵攻」が決して非現実的ではない台湾では、有事に際する備えを万端にしておく必要があるのです。
近年の北朝鮮の弾道ミサイル発射等、日本も防空意識を高めていかなければならない時期が来ていると思います。ただ日本は緊急時に避難できる地下施設が身近にはあまりないのでは、とも思います。何かしらの方法で防空壕となり得るような地下施設を増やしていくことが必要ではないでしょうか。