被害者1人で死刑の例 岐阜の事件に適用を

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 岐阜市のホームレスの渡邉哲也さん81歳が殺害された事件で、容疑者の少年らを死刑にできるのか。過去の判例を当たってみた。

■刑法199条 法文からは1人殺害でも死刑の可能性あり

法文では死刑は被害者1人からでも可能

 3月25日に渡邉哲哉さんを殺害した少年5人に対して「極刑にせよ」と過激とも思える主張をした(参考:岐阜ホームレス男性殺害 19歳に極刑を望む)。この点について、結構な数の方から「過去の判例からして無理」との指摘をいただいた。

 僕も大学院で法律を勉強していたので、それが簡単ではないことは分かる。しかし、同時に、それが決して不可能ではないことも明らかである。それは法文を見れば一目瞭然。

刑法199条(殺人)

 人を殺したものは、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

 ご覧のように法文には「2人以上殺したら」などの条件はない。1人殺害であっても死刑に処することは、現行刑法を改正するまでもなく可能。実際に被害者1人で死刑判決を受け、執行された例もある。

 多少、特異な例と言えるかもしれないが、いわゆる奈良小一女児殺害事件である。2004年に毎日新聞の販売店に勤務していた男が当時7歳の女児を誘拐し、自宅で殺害した事件。これに対し奈良地裁は2006年9月26日に死刑判決を言い渡した。その後、被告人が弁護人のした控訴を取り下げて死刑判決を確定させ、2013年2月21日に大阪拘置所で死刑が執行されている。

 奈良地裁は1人でも死刑判決にしたことに対し、以下のように判示している。

「本件は、殺害された被害者の数が1人であり、これが複数の場合と比べると、その点に関し犯情に径庭が存することは否めないけれども、本件殺人等の犯行の被害者は何ら落ち度がなく、抵抗することもままならない幼少の女児で、性的被害にも遭っているのであって…本件が被害者の数だけをもって死刑を回避すべきことが明らかであるとはいえないのである」(奈良地判平成18年9月26日)。

■永山基準:最判昭和58年7月8日

 死刑の基準としてよく用いられるのは「永山基準」と言われるもので、これは1968年に発生した永山則夫連続射殺事件の判決(最判昭和58年7月8日)で示された死刑適用の場合の基準を言う。判決文から抜き出すと、「結局、死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、財形の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない」(最判昭和58年7月8日)というものである。

 これが被害者の数の部分がクローズアップされ「3人殺せば死刑、2人だと死刑の可能性があり、1人だと有期刑」が相場と言われるようになったのである。ただ、これは、あくまでも一判例に過ぎない。

 被害者が1人だった国立市主婦殺害事件(強盗強姦、強盗殺人、窃盗)の最高裁判決(1999年11月29日)は一審死刑、二審無期懲役で、検察官が量刑不当として上告した事案である。検察官の上告は棄却されたが(無期懲役が確定)、判決文では1名でも死刑判決がありうることを明確に示している。

 その部分を抜き出そう。「殺害された被害者が1名の事案においても、前記のような諸般の情状を考慮して、極刑がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもない」(最判平成11年11月29日)。

 この判示があるからこそ、奈良地裁も死刑判決を出しやすかったという部分はあるのかもしれない。

■岐阜市のホームレス男性殺害事件は?

 では、岐阜市のホームレス男性殺害事件はどうか。基本は永山基準として、犯人の年齢や前科などは死刑回避の方向に働くのであろう。遺族の被害感情や、犯行後の情状等はこれからである。

 その一方で、犯行の罪質、動機などは十分に死刑に値するものではないか。

 極刑へのハードルが極めて高いのは明らかである。しかし、僕は今の時点で彼らの死刑を望んでいるし、また、今後も変わらないと思う。

"被害者1人で死刑の例 岐阜の事件に適用を"に2件のコメントがあります

  1. 大貴木鈴やをれ より:

    そもそも、深夜に集まり投石、逃げる渡邉氏を執拗に追い回してリンチ。一緒にいた女性も危害を加えられている。更に自首しない
    以上の点から計画的殺人&殺人未遂で死刑にすべしだろう。本来なら関与した残りの男女も同罪だが

  2. 月の桂 より:

    この記事からは外れますが、2018年に起きた東海道新幹線車内殺傷事件の判決を聞いた時の怒りの塊と化した自分を思い出しました。
    死刑相当とも思われる残忍な犯罪を犯した者が無期懲役、しかも、生涯刑務所暮らしを望んだその男の希望通りの判決となりました。

    男から襲われた2人の女性を守ろうとした梅田耕太郎さんが、犠牲になりました。
    その場にいた多くの人が逃げる中、たった1人で男に立ち向かっていった梅田さん。
    報道で知るだけですが、梅田さんが男に襲われている中、他の乗客は梅田さんを助けようと向かうことは無かったようですし…。
    後方からでも、男に何かをぶつけるなり出来なかったのかと思ってしまいます。
    恐怖で動けなかった乗客を責めるつもりは毛頭ありませんし、自分もその場にいたら震えるだけで何も出来なかったでしょう。
    それでも、何か出来なかったのかと思ってしまうのです。ご遺族なら、私と同じように思うのではないでしょうか。男は梅田さんが絶命するまで、執拗に刃物を振り上げていました。梅田さんを助ける術は無かったのでしょうか。悔しさと怒りで一杯になります。

    私は、梅田耕太郎さんのお名前を忘れることはないでしょう。来月には御命日も来ます。
    永山基準など無くし、犯した罪に相応しい償いをさせるべきだと思います。人の命を奪った者は、それ相当の刑に服すべきです。

    *松田さん、お返事は不要ですよ。

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