裁判官がラジオ出演 法相への名誉毀損罪成立か
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)
- 分娩費用の保険適用化 26年度導入見送りへ - 2024年12月12日
- 大阪地検元トップ準強制性交で一転無罪主張 - 2024年12月11日
- 参考人弁護士中立性に疑義 厚労省検討会(後編) - 2024年12月8日
仙台高裁の岡口基一判事が5月13日、KBS京都の番組に出演し検察庁法改正案について見解を述べた。裁判官が特定の法案に反対し政府を批判するのは極めて異例であるが、最大の問題は森まさこ法相を嘘つき呼ばわりしたことである。これは名誉毀損罪が成立する可能性があるように思える。
■森まさこ法相を嘘つき呼ばわり
以前からツイッターなどでお騒がせの岡口基一判事であるが、今回はKBS京都の「角田龍平の蛤御門のヘン」に出演し、検察庁法改正案について40分近く話をした。メディアは裁判官としてその行為が裁判所法52条1号で禁止されている「積極的な政治運動をすること」に該当するかを問題にしているようだが、それは後で論ずる。
今回はその点よりも、森まさこ法相の名誉を傷つけていることの方が問題である。同法相が検察官の定年延長を可能にするよう、従来の法解釈の変更を口頭で決済したとした点について、岡口判事は番組内で以下のように述べている。
岡口:森まさこ法務大臣は国会で追及されますと、あの~、とんでもない発言をし始めるんですね。
角田:どんな発言でしょうか。
岡口:(解釈変更の手続き等を縷縷論じる)…今回のような大事なことをですね、口頭決済で済ませるはずがないんです。これはとんでもない嘘なんですね。
この発言に対して、パーソナリティーの角田龍平氏が慌てて口を挟んだ。
角田:まあ、嘘というか、ホンマかいなーという話ですよね。不自然やし、不合理やと。
岡口:断言してはいけませんけれども。
角田:不自然、不合理やと言っておきましょう。
岡口:そうなんです。
岡口判事はさらに、人事院総裁で仙台高裁の長官を務めた一宮なほみ氏にも言及する。
岡口:…森まさこさんと一宮なほみさんは、どちらも法律家なんです。
角田:そうなんですよねえ。
岡口:…そういう法律家がですね、口頭でやりましたなどとですね、真顔で平気で嘘ついて、あ、嘘とは言いませんが、
角田:ホンマかいな~ということね。
岡口:発言されて、この方々のこういうね、あり得ないような答弁で、定年延長は間違いないということで話が進んでしまっている…
これら一連の発言は名誉毀損罪(刑法230条1項)が成立するのではないか。森大臣と一宮総裁に、岡口裁判官を告訴することを強く勧めたい。
■寺西判事補事件は裁判所法違反
そもそも裁判官が特定の法案に対し、ラジオ等のメディアで発言することは許されるのか。メディアはこの点に注目しているようである。
この問題については有名な寺西判事補事件がある(最高裁大法廷決定平成10年12月1日)。仙台地裁の寺西和史判事補が特定の法案に反対する集会にパネリストとして参加予定だったが、それを取りやめて一般参加者席から自らの身分を明らかにした上で「パネリストとしての発言は辞退する」という趣旨の発言をしたという事件である。
最終的に同判事補の行動は裁判所法52条1号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当すると判断された。
岡口判事はNHKの取材に対して「法案が大変複雑なため、内容を正確に理解したうえで議論してもらいたかった。裁判官が積極的に政治運動に参加することは許されていないが、法案の問題点を説明することは禁じられていない」と答えており(NHKのHPより)、これはまさに寺西判事補事件の判例をベースに答えたものと言っていい。
寺西判事補事件の最高裁決定は「裁判官が、一国民として法律の制定に反対の意見を持ち、その意見を裁判官の独立および中立・公正を疑わしめない場において表明することまでも禁止されるものではない」としており、岡口判事は自らのラジオ出演が、その範囲内にあると考えたのであろう。
■仙台高裁は黙っていない?
結論を言えば岡口判事がラジオで話したことは、寺西判事補の事件とは異なり裁判所法52条1号には抵触しないと思う。そのあたりは裁判官が判断を間違えるとは思えない。だが、上記で示したように森まさこ法相に対して「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損し」ており、名誉毀損罪が成立するのはほぼ間違いないと思われる。
岡口判事も裁判所法に抵触しないように十分注意していたが、刑法までは気が回らず勢い余って口にしてしまったのかもしれない。パーソナリティーの角田氏も弁護士だそうで、その点に敏感に反応しフォローしている。
この事案は、簡単には済みそうにない。仙台高裁も黙っていないのではないか。しばらくは注目が必要だろう。