現職教師からも応援の声 札幌免職取消し訴訟

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 札幌市の元教師が免職処分取消しを求めて昨年8月に提起した訴訟では、現職の教師からも応援する声が届けられている。「司法で行政のいい加減さを暴いてほしい」など、札幌市教委への怒りを隠さない教師もいるという。身に覚えのない行為を理由に2021年に免職された元中学教師の鈴木浩氏(59、仮名)の復職に向けた戦いは足掛け4年となる。同氏に裁判の進捗状況と、同氏の現在の思いなどを聞いた。

◾️虚偽の非違行為なるデッチ上げ 

札幌地裁が入ったビル(提供・鈴木浩氏)

 鈴木浩氏は2021年1月28日、28年前に当時中学3年の女子生徒(後の写真家の石田郁子氏)にわいせつな行為をしたとして、懲戒免職処分とされた。本人は全く身に覚えがない”冤罪”であるとして札幌市に審査請求をしたが2023年3月に棄却された(その間の経緯は、免職教師の叫び(1)「ワイセツ教員じゃない」 ほか)。

 2023年8月30日に札幌地裁に免職処分の取消しを求めて訴えを提起し、11月17日に第1回口頭弁論が開かれた(免職の元教師法廷へ「絶対に納得できない」(前) ほか)。

 昨秋の第1回口頭弁論の後、年明けの1月19日に原告準備書面(1)を提出。同書面の冒頭には以下のように記されていた。

 「原告(筆者註・鈴木浩氏)は被害者と称する訴外石田の虚偽事実の申告により重篤で悲惨な社会的境遇に陥れられている。本件処分(筆者註・懲戒免職処分)は虚偽の非違行為なるデッチ上げを不当にも事実とする前提のもとで行われた違法かつ不当な処分であり速やかに取り消される必要がある。」

 さらに、「…原告は本件非違行為を全く行っていないので訴外石田を『被害者』と呼称すべきではなく被告(筆者註・札幌市)が同人を『被害者』と表記することを原告は認めない。」と続く。審査請求時はその性質上、行政上の手続きの適否がメインの争点となったが、法廷では(そもそもそんなことはしていないから、処分を受ける筋合いはない)という点が主戦場となる。

 1月25日に第2回準備手続きがオンラインで行われ、2月16日には被告準備書面が提出された。今後は4月中に第3回の準備手続きがオンラインで行われる予定である。

◾️札幌市は1つの証拠に集中?

 弁護士探しからスタートした鈴木氏の戦いは8月末の提訴で端緒につき、7か月を経過した。その間、どのように過ごしていたのかを聞いた。

ーー 8月の提訴から裁判は進行していますが、今、どんな日々を過ごしているのでしょうか 

鈴木:日々、仕事をして、休みの日にはアルバイトをしています。弁護士費用や東京に行くための費用、さまざまな費用がかかりますから。私生活では、支援してくれる人に連絡をとって状況を説明することもあります。 

 2月16日に札幌市が提出した被告準備書面はA4で2枚というごく簡単なものであった。市教委が2016年6月24日に行った第3回の事情聴取(当時の檜田英樹教職担当部長、現教育長が参加し、処分はしない意向を示した)について録音していない、やり取りを記録した書面も残っていないとあらためて主張している(参考・「黒塗り報告書」を謝罪 札幌市教育長の悪評)。

 また、処分は石田氏が訴えた損害賠償請求訴訟での東京高裁判決で認定された事実に基づくのではなく、それを契機に市教委が後日、非違行為(わいせつな行為)があったと認定したものであることなどが記されていた。

ーー 2月に市教委が出してきた準備書面についてどう感じるでしょうか

鈴木:居酒屋での会話の録音のみに絞って、他の証拠は一切出さないという作戦なのでしょう。私への事情聴取や、審査請求の時に出してきた証拠は何も出してきていません。なぜ、他の証拠は出してこないのですかという、こちらの弁護士からの問いかけにも「それに答える義務はない」ということらしいです。

札幌市の夜景(提供・鈴木浩氏)

 居酒屋での会話とは、2015年12月3日、石田氏の申し出によって2人が市内の居酒屋で面談した際のもので、一部始終録音されている。鈴木氏は石田氏の精神状態が以前から不安定であること、さらに同日、精神科のカウンセリングを受けていることなどを聞かされ、ストーキングの被害などをおそれて相手に迎合したと説明する。その点を裁判では争うことになると思われるが、それ以外の証拠について触れないのは不自然。

 そもそも石田氏は鈴木氏に乱暴されたのに、交際と思わされていた、実際は性被害を受けていたと主張して、鈴木氏の処分を札幌市に求めた。そのため石田氏は交際があったとする証拠を市教委やその後の損害賠償請求で提出したが、札幌市はそれらを一切、無視する構えのように見える。石田氏の主張に沿って処分したのであれば、そうした証拠類を多数示して処分の正当性を主張すれば良さそうであるが、なぜ、そうしないのかというのは鈴木氏でなくても疑問に感じる部分ではある。

ーー 札幌市も居酒屋での会話は早くから入手していましたね

鈴木:2016年には手にしていました。

ーー それでも免職しませんでしたが、何で今になってなのかなと感じます

鈴木:そうですね、よく分かりません。

◾️現役の教師からの応援

 人々の脳裏から事件の記憶は消えても、免職された鈴木氏は北海道の片隅で懸命に生きている。中学の教師という安定した職と収入を失いながらも、なお、自らの無実を証明し、教壇に復帰することを夢見て法廷での戦いを続ける。夜勤を含む日々の仕事をこなし、休日にはアルバイトと、決して安くはない裁判費用を捻出するために働いている。そんな鈴木氏の現在の状況について聞いた。

ーー 周囲からの声はどのようなものがありますか

鈴木:教師を退職された方、現職の方からメールや電話、手紙、直接会って話すなどいろいろな形で応援していただいています。

ーー 現役の先生からも応援の声があるんですね

鈴木:はい、本当にありがたいです。

ーー どのような声ですか

鈴木:例えば「この処分が公表されたときも、周りの教員と話し合っても正当な処分に聞こえない、無茶な感じがした」ですとか、「悪いことはしていないんだから最後まで言い続けて勝ってほしい、負けたら市教委が喜ぶだけ」と言ってくれた先生もいました。「努力してまっとうな仕事をしている教員が認められる世の中でなければいけない。行政には期待できないから、司法できちんと行政のいい加減さを暴いてほしい」と、いう声もいただきました。

ーー マスメディアからは取材はありますか

鈴木:マスメディアからは全く連絡がありません。ネットでも関心がなくなり、終わった事件という扱いに感じます。

ーー 免職された当時はメディアもネットも散々、叩いたのに、復職に向けて戦っている今は全く無視というのも何か釈然としないものがあるのではないでしょうか

鈴木:世間からすれば、処分を受けた教師が何を悪あがきしてるんだという印象を持たれるのかもしれません。私の方からすれば、正しいことを正しいと言っているだけです。死んだ父からはよく『最後までちゃんとやりなさい。途中で投げ出してはダメだ』と言われました。『自分が正しいと思ったことは必ず世の中は認めてくれる』とも。それらは今でも耳に残っています。

 鈴木氏も59歳、今年で60歳を迎える。同期の教師が定年を迎える中、職場への復帰について争っている現状をどう感じているのかを聞いた。

ーー 同世代の教師が定年を前にしているのを見て、自分自身の現在の状況やこれからに関して感じるものはありますか

オコタンペ湖展望台を視察した際の鈴木浩氏(撮影・松田隆)

鈴木:私は61歳で定年退職、65歳まで再任用の予定でした。この事件がなければ、おそらく今でも教員をやって、仲間と一緒に美術のことなどの活動をしていたと思います。それが今、できない状態であっても美術の先生であったことは忘れずに、すぐに教壇に戻れる準備はしています。 

ーー 年齢的にも無理がきかない部分は出てくると思いますが

鈴木:復職に向けて3年も頑張っていると、今の努力が本当に実るのだろうかと感じることはあります。ただ、定年退職された先生方から、体力的にキツいとか再任用もやめようと思っているなどという話を聞くと、自分は体力は自信があるので、まだ出来そうだという感じはします。

ーー この事件があったから、元気でいなければならないというのはありましたか

鈴木:それはあります。お酒を控えて早寝早起き、病気や怪我に気をつけて生活しています。

◾️エネルギーの大半を復職に向け

 当サイトでは鈴木氏の免職直後の2021年6月から断続的に取材を重ねてきた。その間、見えたのは鈴木氏の復職への強い思いである。

 審査請求の棄却裁決後には迷いも生じたのは外部から見ても感じる部分はあったが、それでも司法に救済を求めてエネルギーの大半をそこに注力しているのは感じられる。

 裁判はこれからも続き、判決は2025年以降と思われる。

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