パイロットの飲酒問題、中身ゼロの提言(1/12朝日新聞社説)
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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朝日新聞の社説を毎日読んでいると、大きく分けて2種類に分かれることに気づく。1つはトンチンカンな主張をしている、もう1つは、空虚な一般論・抽象論を並べる。今日は後者の典型例とも言える社説を紹介しよう。
朝日新聞1月12日付けの社説「操縦士の飲酒 背景も探って対策を」。音声データはこちらから。これはパイロットの飲酒をめぐる不祥事に関するもの。昨年秋に日本航空の副操縦士が酒に酔った状態で乗務しようとしてロンドンのヒースロー空港で逮捕され、禁錮10か月の実刑判決を受けた事件は皆さんも記憶に新しいところだと思う。
この点について朝日新聞は、国土交通省が精密な検知器によるアルコール検査を法令で義務付ける方針であることを、妥当な判断としている。これに反対する人はいないだろう。それより、注目していただきたいのは以下の部分。
「取り締まりを強めるだけではなく、過度な飲酒を引き起こす背景にも目を向けるべきだ。」
つまり国土交通省が打ち出した対策を一定程度評価するが、対症療法的な対策だけでなく、根治治療をしなさいと言っているわけである。当たり前のことである。では「過度な飲酒を引き起こす背景」とは何か。これは難しい。朝日新聞はどう考えているのか。それについては2点挙げている。
①世界的にパイロット不足が深刻で、各社とも勤務がきつい。
②羽田空港が24時間化したことで、深夜・早朝の便が増え、長距離の国際線で現地での宿泊日数が短くなり、時差調整が難しい。
要は仕事がきつくなっているということが言いたいようである。しかし、これは過度な飲酒を引き起こす背景と言えるのだろうか。過度な飲酒を引き起こす背景など、個人によって差異があるのが当然。「仕事がきついな。よ~し、倒れるまで酒を飲むぞ~」という人もいるかもしれないが、疲れを残さないために飲酒を控える人もいると思われる。それを「何が原因で、そんなに飲む人がいるの?」と聞かれても一言で言えないだろう。それなりの調査・分析をしなければ結論はでない。
厳しい勤務と過度の飲酒の因果関係の存在を証明するのは、極めて困難である。それなのにこういうことを書くのは、ただ、国土交通省がやっていることは評価するが、朝日新聞はもっとその奥深くまで切り込むぞとアピールしたいだけなのかもしれない。
朝日新聞はこう続ける。「こうした航空業界を取りまく変化も見すえて、総合的な見地から対策を講じなければ、問題の真の解決は遠い」。
皆さん、このあたりパーっと読み飛ばしてしまいそうだが、考えてみてほしい。因果関係があるかどうかも分からないことを持ち出して「総合的な対策」「真の解決」など一般的、抽象的概念を並べるだけという、ほぼ何も言ってない状況に等しいのである。
そもそも実刑判決を受けた副操縦士は現地基準の9倍超のアルコールが検出されたわけで、勤務体系がどうこうの問題ではなく、単に個人の資質の問題だと思う。これから操縦するのに泥酔状態になるまで飲むなんて、まともな人間がやることではない。
説得力ある文章を書きたいなら、まず自分たちが持ち出した「過度な飲酒を引き起こす背景」なるものを具体的に、証拠をつけて挙げるべき。それをせずに根治治療をしろというのは、要は部活動でコーチが選手にただ「もっと気合いを入れろ」と言っているのと変わりないと僕は思う。何の意味も、効果もない。中身ゼロの提言、それがこの日の朝日新聞と言えそうである。