二階氏の一喝に枝野代表”吐いた唾呑んだ”

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 立憲民主党の枝野幸男党首が2日の記者会見で衆院選まで自らを首班とする選挙管理内閣の成立を主張した。民主主義の基本原理を無視して権力を得ようとする信じ難い主張の裏側を推理した。

■菅義偉内閣の退陣求め枝野内閣望む発言

立憲民主党HP、及び二階俊博氏公式サイトから

 枝野代表は2日の会見で菅義偉内閣の退陣を求めると同時に、「私の下の内閣で当面の危機管理と選挙管理を行わせていただくべきだ」との持論を語った。その理由として、現在の状況では衆院解散・総選挙による政治空白を作れる状況でないこと、議院内閣制の国では、危機の際に政府が機能しない場合に少数政党が選挙管理内閣(次期選挙までの暫定内閣)を担う例があることなどを説明した(以上、産経新聞電子版4月2日18:29配信:立民・枝野氏、衆院選まで暫定の「枝野幸男内閣」を主張)。

 日本の議院内閣制は、議会で多数を占めた会派から内閣総理大臣が指名され、それを受けて首相は組閣し行政権を行使する仕組みになっている。議会は国民の選挙によって選出される議員で構成されるから、内閣総理大臣は国民の多数を代表することになる。民主主義の大原則である多数決によって国民の意思は具体化されるのである。

 枝野氏は多数の国民の意思を無視し、自民・公明の現与党に衆参の首班指名で自分に投票しろと言っているのである。自公の議員に国民が示した意思を裏切れ、民主主義の大原則を踏みにじれと言っているに等しい暴論。

 もちろん、枝野氏の言うように議院内閣制の国で選挙管理内閣が成立した例はある。有名なのがギリシャ。同国の憲法の規定は「議会招集から1年未満に首相が辞任する場合、議会の第1党から第3党までの党首が順に各3日間の猶予を与えられて『政権発足』を目指す。協議が不調に終わった場合は、選挙管理内閣が組閣されたうえで、議会を解散して総選挙を行う手はずになる。」(ロイター2015年8月24日公開:ギリシャ、野党の連立協議不調 総選挙ほぼ確実な情勢に)とある。各党派が議会の多数派を形成する努力をするものの、それが実らない場合は選挙管理内閣が発足するという。

 この結果、同国初の女性首相のバシリキ・タヌ=フリストフィリ氏が誕生。彼女は2015年の首相就任当時最高裁長官であった。首相在任期間は1か月程度に過ぎず、国政選挙を実施しただけで退任している。

■枝野氏発言と党綱領の整合性をどうつける

 ギリシャの場合は、内閣の仕事のうちの国政選挙をするためだけの内閣、選挙管理内閣である。枝野氏はその前段の第2党の党首として組閣したいという希望も含んで言ったのであろう。

 しかし、選挙管理だけなら現内閣が行うことに何の問題もなく、枝野氏に任せる理由などない。また、枝野氏は新型コロナウイルス禍への対策も扱うと言っており、そのような国民の健康、生命に直結する政策を選挙で負けた者が行うことになれば、国民への裏切り以外の何ものでもない。それがしたいなら、選挙で勝って行うべきである。

 同党の綱領には「立憲民主党は、立憲主義と熟議を重んずる民主政治を守り育て、人間の命とくらしを守る、国民が主役の政党です。」とある。それでありながら、政党間の談合で選挙で多数を得られなかった党の代表を首相にしてくださいという国民の意思を無視する論理矛盾。枝野氏は党綱領と自身の発言の整合性をどのように説明するのか。結局、枝野氏はミャンマーの軍事クーデターと同じようなことを(武力を使わずに)やりたいと言っているのである。

■枝野氏が選挙管理内閣を言い出した理由

 枝野氏も自分の言っていることの愚かさを分かっていると思う。それでも言い出したのには理由があるはず。勝手な推測だが、おそらく以下のような事情が関係していると思う。

3月28日:立憲民主党の安住淳国対委員長がNHKの番組で内閣不信任決議案の提出準備に言及

3月29日:自民党の二階俊博幹事長が記者会見で内閣不信任決議案が提出された場合「直ちに解散で立ち向かうべきだと進言したい」と発言

3月30日:立憲民主党の福山哲郎幹事長が「解散できるならどうぞ。いつでも受けて立つ」と取材に対し答える

同日:二階氏が福山幹事長の言を歓迎する意向を示す

 このように両党の幹部が解散に向けて激しい応酬を続けており、実際に内閣不信任決議案を出したら、本当に衆議院解散になる可能性が出てきかねない状況となっていた。しかし、参院長野補選で立憲民主党の候補の羽田次郎氏が共産党と政策協定を結び、国民民主党が推薦取り下げを示唆するなど野党共闘の足並みが乱れている状況を考えれば、立憲民主党としては、とても選挙を戦える状況ではない。

 そうした情勢を考えて、枝野氏は安住国対委員長の発言を修正させるために、選挙管理内閣を言い出したのであろう。それは内閣府信任決議案について「明日にでも出したいような、(菅内閣を)信任できる状況ではない。ただ、今は衆院解散・総選挙による政治空白を作れる状況でないのははっきりしている」(産経新聞電子版4月2日18:29配信:立民・枝野氏、衆院選まで暫定の「枝野幸男内閣」を主張)と言っていることからも想像がつく。

■枝野代表に毎年2000万円超の歳費の虚しさ

 派手に政権と全面対決を叫びながら、二階幹事長が「じゃあ、解散・総選挙だ」と言ったら、尻尾を巻いて逃げ出し、そう見えないようにあれこれ理由をつけたのが、今回の枝野氏の発言であると思う。極めて抽象的な表現をすれば、喧嘩を売った相手に凄まれ、吐いた唾を呑んだということである。

 このような政治家に毎年2000万円以上の歳費が支払われていると思うと、虚しい思いが募るばかりである。

"二階氏の一喝に枝野代表”吐いた唾呑んだ”"に2件のコメントがあります

  1. MR.CB より:

    》》ジャーナリスト松田様

    今回のことで思い出されるのは2012年、当時の民主党政権の野田内閣の衆議院解散。野党だった自民党の安倍総裁から解散時期について「近いうちに(国民に信を問う)」を執拗に問われ、野田総理は「…、16日に解散をします。やりましょう、だから」と解散を言い放ちました。機を得た安倍総裁が「今、総理、16日に選挙をする、それは約束ですね。約束ですね。よろしいんですね。よろしいんですね」と、してやったりの表情。もちろん挑発に乗った訳でもないんでしょうが、一気に議場が騒然とした記憶が鮮明に残っています。
    当時の世論調査で野田内閣の支持率は20%を割り、次の選挙で民主党に投票するは10%台と低迷していました。最近の主要紙の世論調査でも立憲民主党の政党支持率は6%前後です。たしかに菅政権の支持率も38%ほどですが、有権者の多くは決して野党勢力を投票の受け皿とは見ていません。とてもじゃありませんが、自公に代わり政権を担う期待は持てません。
    否、国民は望んでいないのです。
    結局のところ、民主党政権の総括をきちんと行なっていないツケが、未だに国民の不信を拭い切れていないことに尽きます。そろそろ、旧民主党議員の先生方は自戒された方が良いかと思います。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      >>MR.CB様

       コメントをありがとうございます。

       安倍vs野田の党首討論、よく覚えています。田中真紀子氏が「この時期に解散はダメだ」とボヤいていましたが、案の定落選しましたね。

       立憲民主党は国民民主との一部合流でも支持率が上がっていませんから、次の総選挙も厳しいでしょう。自民党を右から攻撃できるような野党が出てくれば面白いといつも思っているのですが、なかなかそういう政党も出てきません。そのあたりが日本の政治の課題と感じます。

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