LGBT法は不要 理念法に潜む危険な罠

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 LGBT理解増進法案の取り扱いが問題となっている。岸田文雄総理は2月20日の自民党役員会で「(国会)提出に向けた準備を進めていく」と語り、党幹部に議論を指示した。当サイト(代表・松田隆)は現時点で明らかにされている点から判断すると同法案は弊害が大きいと考え、反対する。

■LGBT理解増進法案に賛成の世論

総理は国会に提出を指示したが…

 LGBT理解増進法案(以下、同法案)は2021年に超党派の議員連盟がまとめたものの「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」という文言に自民党内で慎重論があり提出されなかったのは既に報じられている。

 同法案は一部の勢力が主張するLGBT差別禁止法などのように罰則を伴う実定法ではない。ある事柄に関する基本理念を定めるのが目的の理念法という位置付け。

 たとえば、食品ロスに関しては「食品ロスの削減の推進に関する法律」、ヘイトスピーチに関しては「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」などと同じ立ち位置となる。

 同法案の理念は「性的指向・性自認の多様性に寛容な社会の実現を目指す」というもの。それに反対する国民はそれほど多くないと思われる。その理念の実現を目指す法案と言われれば、多くの人が賛成するのは容易に想像がつく。当サイトもその点に反対する理由はない。

 実際、共同通信が2月11日~13日に実施したアンケートで「LGBTなど性的少数者への理解増進法」について必要と答えた人は64.3%と圧倒的に賛成が多かった(新潟日報デジタルプラス・同性婚導入「賛成」、理解増進法「必要」各64%台・全国世論調査、2023年2月25日閲覧)。

■法案が侵害する基本的人権

 そのような状況で、当サイトがなぜ反対するのか、不思議に思う人は少なくないと思う。理由を一言で言えば「弊害が大きいから」であり、もう少し詳しく説明すると、以下のようになる。

(1)思想・良心の自由など、憲法で規定された基本的人権が侵害される可能性がある

(2)条例で罰則規定が設けられ、恣意的に運用される可能性がある

 順に説明していこう。(1)に関しては、同法案が目指す多様性に寛容な社会は問題ない。しかし、同性愛など性的マイノリティーの指向に嫌悪感を感じる人も少なからず存在し、それも多様性の中の1つのカテゴリーであろう。そうした人々が「性的な多様性を否定する差別主義者」とされるリスクは否定できない。

 荒井勝喜首相秘書官が差別的な発言が原因で更迭されたのは記憶に新しい。その時に岸田総理は「多様性を尊重し、包括的な社会を実現していく今の内閣の考え方には全くそぐわない。言語道断の発言」(ロイター・岸田首相、荒井秘書官を更迭 LGBTなどめぐる発言で)と更迭した理由を説明した。これは「荒井秘書官の考え方が悪いからクビにする」と言っているに等しい。

 荒井秘書官にも憲法19条で保障された思想・良心の自由はある。内心の自由は100%保障されるべきで、このようなことが行われたら、(下手に自分の考えを口に出したら、職を失う)と考え、それ以後、そうしたことは口にしなくなるか、そもそもそのような考えをしないようにして保身する。内心はどうあれ、内閣の方針に従って働くのが秘書官の役割。多くのサラリーマンも内心とは異なっても会社の方針に従って仕事をした経験はあるのではないか。

 同法案が成立したら、荒井秘書官のような考えを持つ公務員や会社員は自らの考えを表に出さずに生きていくしかない。そのような窮屈な世の中がやってくることを同法案に賛成した6割以上の人が認識しているのかは疑問である。

■細野豪志議員の合理性が欠如したツイート

細野豪志衆院議員(同氏ツイッターから)

 経済的自由に関しても窮屈な世の中になる可能性はある。ネットで多く指摘されているように、性自認が女性のペニスを持った人が銭湯の女風呂で入浴しようとする場合にどうするのか。

 通常の事業者は「ご遠慮ください」と止めるはず。ペニスを持った人が女風呂への入場を認められれば騒ぎになるし、その後、女性客は激減するのは火を見るより明らか。

 その点を、自民党の細野豪志衆院議員は以下のようにツイートした。

LGBT理解増進法ができても性自認が女性と主張する男性が公衆浴場に入ってくるということはない。トランス女性団体がそのようなことを訴えているわけではないし、これまで同様、管理者の判断(陰茎の有無)が最優先。理解増進法は理念法にすぎない。トランス女性と言い訳して犯罪に及べば刑事事件だ。(2023年2月23日午後8時31分投稿)。

 この細野氏のツイートは合理性を欠く。男性が女風呂に入ってこない理由は「トランス女性団体がそう言っていない」「管理者の判断が最優先」というもので、トランス女性団体に属さない人、あるいは属していても自分は入ろうとする人の存在を無視している。その上、入場の可否は管理者の判断が最優先ということは、公的権力はその可否に関する最終的な決定権はなく、民間の判断に委ねると言っているに等しい。

 管理者が「性自認が女性ならペニスがあっても女風呂に入っていい」と判断すれば、女風呂に入れていいということになる。そのようなことが行われた場合、極めて多感な時期の小中学生の女子児童には、一生心に残る傷となるかもしれない。

 さらに公衆浴場の事業者が性自認が女性でもペニスがある人の女風呂への入湯はお断りとした場合、事業者が差別主義者であるとして訴訟を提起される可能性はある。訴えは棄却されたとしても、別のペニスを持った性自認女性の生物学的男性が訴訟を提起して、となると事業者は事業どころではなくなる。

 こうしたことが起きるのは、突き詰めれば「性的指向・性自認の多様性に寛容な社会の実現を目指す」考えこそが正しく、それに反する考えは劣った考えで許されないという社会が誕生するからと言っていい。まさに社会に分断と格差を生み出す原因となり得るのである。

 さらに言えば、そのような分断と格差が生じることで最も被害を受けるのは若い女性である。日頃、女性への性的搾取を問題にするフェミニストが法案に賛成するのは、進歩的な法を成立させるという果実を得るために「ノンケの若い女」を犠牲の羊として差し出す行為に見えてならない。それでも若い女性が法案に賛成するというのであれば、もはや、言うことはない。

■ヘイトスピーチ解消法の弊害から学べ

 (2)について考えてみよう。ヘイトスピーチ解消法という理念法が制定された後、いくつかの自治体でヘイトスピーチを禁止する条例が制定され、罰則が設けられた。よく知られているのが川崎市である。

 川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例は12条でヘイトスピーチを禁止し、14条で同様のヘイトスピーチを行おうとする場合には市長が勧告を出し、それに従わない場合は23条で50万円以下の罰金が科される。理念法を制定したことで、条例レベルではそれに罰則を設けることが可能なのである。これは法律と条例の関係という憲法上の大きな問題の1つが関係するが、このような条例は憲法違反にはならないとするのが通常の考えである(参照・最高裁大法廷判決昭和50・9・10)。

 その結果、川崎市では日本人が「(マイノリティの)○○人を叩き出せ」と演説したら罰金を科されるも、○○国籍の人間が「日本人を叩き出せ」と演説しても表現の自由の保障の対象となってお咎めなしという事態が、講学上、生じることになる。

 同法案が成立した場合、LGBTの差別を禁止する罰則付きの条例が制定される可能性はあり、それを通じて、事実上、思想・良心の自由の制約が行われることも考えられる。実際に川崎市では、2020年7月の福田市長の記者会見で、神奈川新聞所属と思われる記者から政治団体主催者の思想改造をすべきという趣旨の質問が出されている(参照・「表現者を萎縮させろ」と迫る記者)。

 思想・良心の自由、表現の自由の体現者であるべき新聞記者が、条例を根拠に特定の思想や表現を制約しようとした例として、我々は記憶すべきである。

■現行法で対応が可能

写真はイメージ

 一般社会ではLGBTに対する理解は進んでいると思われる。芸能人でもカミングアウトする者は少なくないのは、それだけ世間の理解が進んだからであろう。

 裁判でも同性愛者の集団が公共施設宿泊を拒否されたことで、損害賠償を請求した事件(いわゆる東京都青年の家事件)では、請求が認められている(東京高裁判決平成9・9・16)。

 LGBTを理由に差別することは法の下の平等に反するのは明らかで、そうした差別を許さないことは、現行法でも十分に対応は可能である。

 それを上述のようなさまざまな弊害を生じさせてまで、わざわざ理念法で確認する必要などない。それが当サイトの現時点での結論である。

"LGBT法は不要 理念法に潜む危険な罠"に4件のコメントがあります

  1. BADチューニング より:

    “法律”で“カネ”が動いて“利権”を産み、ますます「ややこしい」事態に……

  2. pomme より:

    細野豪志衆院議員は女性への影響を軽視しています。
    トランス女性と言い訳して犯罪に及べば刑事事件だと投稿したようですが、法案を通したら女性がそういう事件に遭う可能性が格段に増えるとは考えないのでしょうか。なりすましT女性は必ず出て来る。盗撮や性加害はやりたい放題です。心が女性だと言うのなら、女湯や女子トイレを利用するT女性に対し不安や恐怖心を覚える女性の気持ちも理解出来るはずですが。LGBTQのQの人はその時々で性自認に変化があると聞きました。では、その時々で利用施設も変えるということでしょうか。衣服の着脱がある場所は身体的性差で利用を区別するべきです。
    私は性的少数者に偏見も無ければ差別する気も全くありませんが、TとQの人の考えを理解するのは難しい。女性や子供への影響を考えるとこの法案には賛成出来ません。黙っていれば容認したと思われますから、いろんなサイトを巡り、LGBTQ記事があれば一生懸命コメントしているところです。

  3. 石ころ より:

    私は当事者ですが、おっしゃる通りです。もう随分以前からこの法案の動きはあり、それと共にスポーツに関するトランスの扱いの変化に対しても懸念を抱き続けていました。
    当事者の意見を言える場所で自分も懸念を率直に発言して来ましたが、理解者はいるものの大きく反対を唱える人も出て来ず、また性同一性障害の学会ですらもこのLGBTの暴論を承認してしまっている現状です… こんな法案が通ってしまえば、非当事者だけでなく、当の該当者自体が多大な不利益を被ることにもなります。私は単なる一般人であり、それこそSNS等でこの法案の危険性を訴えることしか出来ませんが、世の女性のみならず、国民の皆様にはその危険性をしっかり認識していただいて、反対の姿勢を貫いていただきたいと思っています。松田様にも、今後もどんどん真実を発信して警鐘を鳴らし続けていただけることを心から望んでおります。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      警鐘を鳴らしてきましたが、ついに提出となってしまいました。ただ、議員立法で与党だけで提出するというところに無理があるのは明らかで、成立は難しいのではないかと感じます。

      女性の安全が侵害されるだけでなく、ヘイトスピーチ解消法のように、思想・良心の自由を制約するツールになることを恐れています。当事者の方が反対される意味は非常に大きいと思います。成立しないことを望んでいます。

      返信が遅れてすみませんでした。これからもよろしくお願いいたします。

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