免職教師の叫び(10)そこまでまだ覚えてない

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 札幌市の教師・鈴木浩氏(仮名)は、居酒屋の個室で17年ぶりに会った石田郁子氏と向かい合った。様々な重圧を受け、無事に切り抜けるためには(気持ちよく帰ってもらうしかない)と判断。記憶するほど繰り返された妄想話も肯定する決意をした。

■後から「本当は何もありませんでした」と言えばいい

鈴木浩氏(仮名)が描いた居酒屋での石田氏

  17年ぶりの再会、鈴木氏はまず、自分がなぜ現在の中学にいることが分かったかを聞いた。石田氏から市の職員、教員が異動になるのをネットで検索して突き止めたことを伝えられ、自らが教員である以上、そうした情報が公開され続けることを改めて認識させられたのである。

 別れ話をした後、自宅で待ち伏せをされたり、当時の恋人のアパートに押しかけられたりの迷惑な行為を受け、全く事実と異なる妄想話を否定すると半狂乱のようになった記憶が蘇る。美大に進んだことから劇薬や刃物が容易に手に入る状況、店に入ると個室の奥に行くように勧められた(参照:連載第9回・妄想と迎合)。部屋を出るためには石田氏の横を通らないといけない。自分が追い込まれているのを感じた。

 隣の個室が妙に静かなのも気になった。トイレに立った時に隣室を見るとドアが閉められており、客が入っているのは間違いなかった。それでも静かなのは石田氏の仲間が潜んでいて、隣の様子に聞き耳を立てており、何かあれば自分たちの個室になだれ込んでくるのではないかと不安になった。

 「怪しい男が2、3人、部屋に入ってきたり、石田がナイフでも出してきたりすれば警察に電話できますが、そうでないと電話もできません。こうなったら相手が言うことを認め、『はいはい、おっしゃる通りでございます』と言って、気持ちよく帰ってもらうしか方法はないと思いました。後で必要があれば『いいえ、違います。あれはある意味、逃げ場がなく、否定すれば何をされるか分からない状態だから、そう言うしかありませんでした。彼女の作り話で、本当は何もありませんでした』と説明すればいいと思いました」。

■「無機質な感じ」で質問する石田氏

 こうして鈴木氏はこれまで何度も聞かされた妄想を今回ばかりは否定する事なく、相手の言うことをそのまま肯定した。石田氏は感情がない「無機質な感じ」で淡々と聞いてきたという。以下は石田氏が裁判に提出した証拠(甲4号証の2)からの引用である。

石田:あれ、私、卒業式の前の日に、片岡球子の展覧会、連れてってくれたの覚えてます?

鈴木:ハッハッハッハ…そうですねぇ

石田:うん

鈴木:いやぁ

石田:片岡球子と岩橋英遠の展覧会に。先生が「ただ券があるよ」って言って

鈴木:あーそうでしたねー

石田:そうそう、私の中学の卒業式の前日に連れてってくれて。あれですね、そのあと、あれ、私が生理痛でおなか痛くなって、なんか先生が家でうどん作ってくれて

鈴木:はい

石田:そのとき先生が告白して来て

鈴木:そうです

石田:私すごいびっくりしたんですよ

鈴木:はぁーそうです。これを見て

石田:はい

鈴木:そこまで思い出すのはあなたしかいないです(笑う)

石田:ああ。先生覚えてます?

鈴木:玄関でキスした

石田:玄関…でしたっけ?

鈴木:そう

石田:はい。いやーそれでびっくりして

鈴木:そうでしょうね

石田:はい。覚えてるんですか?

鈴木:覚えてます

 塩谷丸山に登山した時の話でも似たような反応をしている。

石田:丸山っていう山に

鈴木:はい

石田:先生が連れてってくれたとき

鈴木:はい

石田:おぼ、覚えてます?

鈴木:はい、そこでも。はい

石田:そこでもフェラチオ

鈴木:はい

石田:先生に頼まれてしたんですけど

鈴木:はい

石田:で、山登って、先生にフェラチオするように、まあ、頼まれて、言われて、「やってくんないかな」って言われて、して、まあ私が先生にして、それで、私、山ってなんか、なんですかね、ヤッホーとか言うイメージあって

鈴木:はい

石田:先生、その、終わって下山する途中で「あ、ヤッホーって言うの忘れたな」って言ってて

鈴木:はい

石田:なんかそういうのとかすごく覚えてるんですよ

鈴木:あったね、そういえばね(笑う)

■鈴木氏が持ち出した17年前の”妄想”

石田氏と待ち合わせたビルの1階ロビー(提供・鈴木浩氏=仮名)

 このように鈴木氏はひたすら相手の話に合わせている。もっとも、鈴木氏は、石田氏の話が別れる時(1998年秋)に延々としていた妄想話とは微妙に変化していることに気づいた。(どちらの話に合わせて相槌を打てばいいのだろう)と迷った結果、相手に17年前の話をぶつけたのである。

 17年前、 石田氏は鈴木氏が指摘したように「玄関でキスをされた」と言っていたという。ところが、この時はうどんを作ってもらった時に告白されてキスをしたことにされていた。この2つは場所が異なるため、両立することはない。それが、その点を指摘した結果、石田氏は「はい。いやーそれでびっくりして」と、そちらも認めたのである。

 さらに、石田氏はフジテレビの取材に対しては以下のように答えている。「X(筆者註:鈴木氏のこと)の自宅で画集などを見ていた石田さんの顔に、突然Xが顔を近づけてくる。」とし、キスを避けた石田氏に対して「『いきなりキスしようとしたのは悪かった。実は好きだったんだ。』Xはこう言って石田さんに一方的にキスをした。そして過呼吸になり、泣き出した石田さんを横にして体を触った。」(FNNプライムオンライン2020年10月1日公開:性暴力を受けた少女は「交際」と信じた 教師のわいせつはなぜ裁かれなかったか)。

 ここでは、うどんが画集に変わっている。時系列で見てみよう。

1998年秋:玄関でキスされた

2015年12月:うどんを作った時にキスをされた

2020年10月:画集を見ている時にキスをされた

 結果として、よりドラマチックに、洗練された思い出に変化しているように見える。もし、会った時にしたうどんの話が事実であれば、「玄関ではしていません」と言うはずであるが、否定せずに受け入れているのは、17年前に自分が言った虚偽の話が頭に残っていたのかもしれない。そもそも全くない話であれば、このような反応はしないはずである。

 相手の言うことを認めつつ、17年前の話との整合性を問うと、相手は否定せずにそれに乗ってくる。結果的に両立しない話をすることになり、石田氏の話の真実性を揺るがす効果を発揮することになった。

■不思議な日本語「そこまでまだ覚えてない」

 この鈴木氏の問いかけは、塩谷丸山の話でも出されている。

鈴木:例えばね、山に登ってね、女性の方とね

石田:うん

鈴木:キスをするとか、フェラチオをしてもらうとか

石田:うん

鈴木:それからあの、僕の●●の家の方でね

石田:うん

鈴木:フェラチオしてもらって

石田:うん

鈴木:射精してるでしょ

石田そこまでまだ覚えてない

鈴木:ああ。僕の、あの、精液を飲んで、「苦い」って言ったの覚えてるかな

石田:はい

鈴木:苦かったでしょ?

石田:うーん

 精液を飲む話は、石田氏が交際当時にしていた話であるという。父親と愛人の間での出来事を、父親から聞いた石田氏が鈴木氏に話したそうである。当時、鈴木氏は「それはあなたのお父さんの話でしょ」と言っていた、まさにその話である(参照:連載第8回・ホラー映画の如く)。

 ここで注目していただきたいのは、その話を聞いた石田氏の反応、太字にした部分「そこまでまだ覚えてない」である。ここでの「覚えてない」は「記憶にない」という意味なのは明らかである。しかし、「まだ記憶にない」などという日本語はあり得ない。「そこまでまだ思い出せない」(この表現もやや不自然ではあるが)の単なる言い間違いかもしれないが、「まだ自分の中で妄想を組み立てていない」という意味で語っているとしたら辻褄は合う。

 さらに、その鈴木氏の虚偽の話を自分の中で組み入れようとしているかのような発言が続く。つまり、射精したことを覚えていないと言いながら、「苦い」と言ったことを覚えていると肯定する、明らかな論理矛盾を起こしているのである。もし、石田氏が真実の記憶に基づいて鈴木氏を問い詰めているのであれば、こうしたやり取りにはならないのは明らか。

 もちろん、これらの話は、鈴木氏は石田氏の虚言と17年前に聞いた虚偽を含む話であるとする。「相手の言うままに認めよう」と決めて対応した鈴木氏の愚直な問いかけが、結果として石田氏の話が妄想ではないかと思わせるような効果を発揮しているのである。

■認めた以上は責任追及

 こうして石田氏に楽しいと感じて帰ってもらおうという鈴木氏のやり方は成功したかのように見える。しかし、石田氏もそのまま引き下がったわけではない。相手が行為を認めた以上、責任を追及するのは当然である。

第11回へ続く)

第9回に戻る)

第1回に戻る)

"免職教師の叫び(10)そこまでまだ覚えてない"に2件のコメントがあります

  1. 月の桂 より:

    〉石田氏から市の職員、教員が異動になるのをネットで検索して突き止めた――

    人事異動は新聞にも掲載されますし、鈴木氏(仮名)の勤務先を調べることなど容易いことです。鈴木氏にその認識が無かったことに驚きました。

    〉怪しい男が2、3人、部屋に入ってきたり、石田がナイフでも出してきたりすれば警察に電話できますが――

    部屋に押し入られたり、刃物を向けられた状況で、電話する余裕なんてあります?
    咄嗟に逃げようとするのではありませんか?奥に座って逃げられない状況だとしても反射的に身を守ろうとするはずです。
    電話せずとも、騒ぎに気付いた従業員が駆けつけるでしょう。

    〉後で必要があれば『いいえ、違います。あれはある意味、逃げ場がなく、否定すれば何をされるか分からない状態だから、そう言うしかありませんでした。彼女の作り話で、本当は何もありませんでした』と説明すればいいと思いました」――

    これにも驚きました。子供の発想ですよ。
    説明すれば理解を得られると本気で思っていたのでしょうか。逃げ場がないと仰いますが、ご本人、途中でトイレに立っているではありませんか。その際、隣室のドアが閉まっているのを確認し、石田氏の関係者がそこにいると思ったわけでしょう。
    何をされるかわからない状況なら、トイレに立ったタイミングでお店の方に事情を話せるではありませんか。怪しまれずに部屋から出られるように、お店の方が芝居をしてくれたかもしれません。

    鈴木氏が石田氏に会うことを決断したのは、会わないことによる彼女からの攻撃を恐れたからですよね? ですが、過去の石田氏の言動を考えたら、一度会って終わりにするとはとても思えません。一度でも会ったら最後、次は、その次は、と石田氏の要求に応え続けるしかなくなります。
    鈴木氏は、そういうリスクを考えなかったのでしょうか。失礼ながら、短絡的思考としか言いようがない。鈴木氏の年齢からいっても、この甘い判断は無いよなと感じます。

    この事件には関心を持っていたのですが、なんだかちょっとシラケてしまいましたね。
    鈴木氏には、石田氏の投げた網から逃れる手立てはあったのに、自分から網に入ってしまった感ありです。ここまで、具体的な性行為について話してしまった音声は、何をどう説明しようと決定的な証拠として採用されたのでしょうね。

    そうはいっても、私は、鈴木氏は冤罪被害者だと確信していますから、名誉回復への支援をするのは当然だと思っています。

  2. MR.CB より:

    》》ジャーナリスト松田様

    記事を読んで知れば知るほど恐ろしくなってきます。小説やよく出来た映画よりもやっぱり現実は複雑で、何よりエンドロールで「はいお終い」にはならないので当事者は辛いですね。しかも何年も前の遠い昔の出来事が、ある日突然に自分に襲いかかって来るなんて、身の毛がよだちます。

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