ジャニーズ性加害 スポーツ新聞の無反省

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長による少年への性加害問題で「再発防止特別チーム」が29日、調査結果報告書と、再発防止策の提言書が公表された。あらためて前社長の行為の悪質さが明らかにされるとともに、マスメディアについて極めて不自然な対応をしてきたと厳しい表現で指摘。また、問題を正面から報じなかったメディアの責任にも言及している。

◼️性加害そして隠蔽工作

写真はイメージ

 ジャニーズ事務所が公開した調査結果報告書(公表版、以下報告書)は全67頁、本文は約7万8000文字に及ぶ長文である。詳細は後述するが、注目したいのは、メディアの責任に触れた部分。

 「ジャニー氏の性加害の問題については、過去にいくつかの週刊誌が取り上げてきたものの、2023年3月にBBCが特集番組を報道して、その後、元ジャニーズJr.が性加害の被害申告の記者会見を行うまで、多くのマスメディアが正面から取り上げてこなかった。…報道機関としてのマスメディアとしては極めて不自然な対応をしてきたと考えられる。」と事実を指摘する。

 その上で、「ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなったと考えられる。」(報告書 第4 本事案の背景 4 マスメディアの沈黙 p53)とした。

 日頃から性犯罪に対する報道では、無実を主張する人を犯人扱いすることもあるメディアが、ジャニー喜多川氏の件については不自然なまでに沈黙を守り続けてきた。テレビ局であれば、下手に報じて芸能番組にジャニーズ事務所からタレントが派遣されなくなれば、視聴率の低下は避けられない。その結果、知っていても無視、知らないふりをする、というのである。

◼️なぜかスポーツ紙は謝罪なし

 こうした点について、各テレビ局はコメントを発表。たとえば日本テレビは「…ジャニー喜多川氏による性加害の事実について『マスメディアが正面から取り上げてこなかった』などの指摘を重く受け止め、性加害などの人権侵害は、あってはならないという姿勢で報道してまいります。」とした。

 また、テレビ朝日は「…人権尊重を明確に掲げて事業活動を行っておりますが、調査報告書に盛り込まれたマスメディアに対する指摘を重く受け止め、今後ともかかる取り組みを真撃に続けてまいります」と殊勝な態度を示している(以上、日刊スポーツ電子版・「指摘を重く受け止め」ジャニーズ性加害問題 再発防止特別チームの会見受け民放各局がコメント)。

 民放各局はジャニーズ事務所との良好な関係を保つことで番組制作等で多大な恩恵を受けてきた。そのため、ジャニーズ事務所のスキャンダルに及び腰であったのは容易に想像がつく。その点を踏まえてのコメントであろう。

 ところが、スポーツ新聞はこのようなコメントを発表した形跡はない。筆者は2014年まで日刊スポーツ新聞社に在籍していたが、スポーツ新聞の中でジャニーズ事務所と最も関係が良好だったのは筆者が知る限り、日刊スポーツであった。事務所の都合の悪いことは極力報じない。その見返りとして、通常はスポーツ新聞のインタビューに応じることのない大物のタレントが応じたり、人気グループを新聞4頁分で扱い、通常発行の新聞を包むようにして販売するラッピングと呼ばれる手法で売り出したりするなど、蜜月関係にあった。

 日刊スポーツでは芸能に関しては文化社会部というセクションが担当するが、所属する記者は事務所との良好な関係を自慢げに話すことも多かった。ジャニーズ事務所との関係からであろう、おそらく同事務所と相談してから作成したと思われる記事がアップされたこともあった(参照・ジャニーズ事務所の公取委からの注意問題で生じた日刊スポーツ「空白の173分」)。

 北公次氏が著書「光GENJIへ」(1988年 データハウス)でジャニー喜多川氏による性加害を暴露して以後、その件について知らない者などいない。少年たちが人生を狂わされるような被害に遭っているのを認識しつつ、事務所に気に入ってもらえるような記事ばかり書いていたとしたら、もはやメディアとしての資格などない(参照・ジャニー喜多川氏の性犯罪の告発に沈黙する日本メディア”強者”に阿る体質)。

◼️筋の通った記者もいた

 筆者が入社した1980年代半ば、新人研修で文化社会部の記者が講義を行った。小林さんという記者で後にレース部長となって、筆者の直接の上司になる人である。

 その小林記者は、芸能人の取材の難しさについて語った。以前、ある芸能人を取材したところ、事務所から封筒を渡された。とりあえず受け取り、中身を確認すると5万円入っていた。当然、「これは受け取れません」と言って返したそうである。

 「記者をやっていると、そういう誘惑がいくらでもある。記者としてやっていこうと思うなら、決して誘惑に乗ってはいけない。」

 小林記者はそう強調して講義を終えた。日刊スポーツにはそういう筋の通った記者もいたのである。果たして今の記者はこうした言葉をどう聞くのだろうか。ジャニーズ事務所に都合のいい記事ばかり書き、社会的な大問題になれば掌を返して客観的な立場から報道をする。まず、自分たちがやってきたことを検証し、必要であれば謝罪するのが筋と感じるのは筆者だけではないはずである。

◼️藤島ジュリー景子社長知らないはずがない

 ここで、報告書の中身についても一応、触れておこう。既に報道されているとおり、故ジャニー喜多川前社長による少年への性加害は1950年代から始まり2010年代半ばまで続き、その内容は「体を撫でまわす、性器に触る、ディープキスをする等のわいせつ行為や、口腔性交により射精させる、肛門性交をしたりさせたりするといったもの」(報告書 第3本事案の原因 1ジャニー氏の性嗜好異常 p42)で、現代であれば不同意性交(刑法177条)、不同意わいせつ(刑法176条)に問われるものである。ちなみに不同意性交の法定刑は5年以上の有期拘禁。

藤島ジュリー景子社長

 こうした行為が半世紀以上も続き、実姉のメリー喜多川氏は1960年代前半にはジャニー喜多川氏の性嗜好異常を認識していたものと思われる。

 「ジャニー氏の性嗜好異常と、それによる少年たちへの性加害が続いていることを知りながらも、その行為を否認し改めようとしないジャニー氏の行動を止めるのを断念したことで、結果として放置する形となり、外部に対してはジャニー氏を守り切るために徹底的な隠蔽を図ってきたものと考えられる。」(報告書p44)とした上で「メリー氏が何らの対策も取らずに放置と隠蔽に終始したことが、被害の拡大を招いた最大の要因である。」(報告書 第3本事案の原因 2メリー氏による放置と隠蔽 3ジャニーズ事務所の不作為p44)と厳しく断じた。

 また、現社長の藤島ジュリー景子氏は自身はそうした性加害があったことを知らなかったとしたが(参照・茶番だ 藤島ジュリー景子氏の謝罪)、報告書は「ジュリー氏は、取締役就任時(筆者注:1998年3月)頃には、ジャニー氏によるジャニーズJr.に対する性加害の疑惑について認識していたと認められる。しかし、ジュリー氏は、ジャニー氏の性加害の事実について積極的な調査をするなどの対応はとらなかった。」(報告書 第2 事実関係 3 性加害 (4)性加害に関する認識  イ ジュリー氏の認識 p28)とされた。要は、ジュリー氏がこの問題について5月14日に公表したビデオメッセージは虚偽と思われるというのである。

 少年らの被害状況やトップの隠蔽、ジュリー氏が「知らなかった」と、おそらく虚偽の事実を述べたこと、半世紀以上に渡って性加害が継続されたのは、そうした大人たちの倫理の欠如にあると言っても過言ではない。誤解を恐れずに言えば「組織ぐるみの犯行」である。

 なお、ジャニーズ事務所では31日、報告書を受け、9月7日に記者会見することを明らかにした。

    "ジャニーズ性加害 スポーツ新聞の無反省"に2件のコメントがあります

    1. BADチューニング より:

      ジャニー•喜多川氏からの、色んな意味での「覚え目出たく」“出世”した連中は、何も言わない。

    2. 通りすがり より:

      >知っていても無視、知らないふりをする、というのである。

      そこは現在ほぼ毎日取り沙汰されているビッグモーターについても同じでしょうね。
      大口のCMスポンサーだったため、今までは「都合の悪い事実」を報道しなかったが、BM社の圧倒的劣勢に陥ったことを確認すると手の平を180度翻して今はご覧の通りの有様。
      ただ、ジャニーズについては元経営者の不祥事のため「末端の所属タレントに罪はない」とばかりにドラマ、バラエティ、CM等、TVを点けていればいればほぼ毎日100%ジャニタレの姿を見ることになる。
      実際に所属タレントに罪がないのは事実なのでそれはいいのだが。

      ただマスコミの姿勢よりも他に疑問に思うのは、現在性被害を訴えている者の中には本人の事務所所属期間やその時期のジャニー喜多川氏の健康状態と鑑みて本当に性被害を受けていたのかどうか疑わしい人物がいること。
      そして巷でその活動内容や公的かつ多額な補助金の使途に大いなる疑惑を呈されてる某一般社団法人に繋がる活動家や弁護士の面々が「ペンライト」なる団体を作ってこの件に積極的に関わろうとし、本件に国を介入させてまで利権を得ようと画策しているようにしか見えないこと。
      無論かつてジャニー喜多川氏による被害があったことは本当なのだが、実際に被害に遭っていないと思われる人間が被害を訴えたり、ましてやそういう人物の裏で糸を引いているかのような活動家団体が正義の味方面で追及に参加するのは明らかにおかしいこと。

      既にジャニー喜多川氏が故人であるため全容究明には困難が伴うことは誰の目にも明らかだが(故人であるからこそ今になってここまで騒ぎ立てているのだろうが)、正しい手続きだけが行われることに期待したい。

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