伊藤詩織氏の事件でドアマンの証言の無意味さ 週刊新潮の記事は雑すぎる
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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ジャーナリストの伊藤詩織氏(30)がTBSワシントン支局長だった山口敬之氏(53)に対して損害賠償を求めた裁判に関して、週刊新潮12月26日号がホテルのドアマンの陳述書について記事を掲載している。「控訴審のカギを握る新証拠」という小見出しがついているものの、実際に読んでみると、とても「カギを握る」などとは言えないような代物。誤字もあるし、週刊新潮はこの程度だったのか!?
■タクシーから降りるのを嫌がった伊藤詩織氏
週刊新潮が「控訴審のカギを握る新証拠」というのは事件のあった2015年4月3日、東京・白金のシェラトン都ホテルに勤務し、ドアマンとしてエントランスに立っていた人物の一審では取り上げられなかった陳述書である。山口敬之氏と伊藤詩織氏がタクシーを降りるところから、ホテルに入っていく場面を目撃し、その一部始終を供述している。
そもそもドアマン氏が見たのが本当に山口・伊藤の両氏であったのかが確かではないが、そこはそうであるとして見てみよう。伊藤氏が泥酔状態で、タクシー内で嘔吐したことは両者の間で争いはないようである。ドアマン氏が目撃したのは既に伊藤さんが車内で嘔吐した後のことである。便宜的に各供述に番号を付した。
※タクシーを降りる場面
(供述1)<(山口氏は)奥に座った女性に腕を引っ張るようにして降りるように促していた>
(供述2)<女性の方は(中略)「そうじするの、そうじするの、私が汚しちゃったんだから、綺麗にするの」という様な事を言っていました。>
(供述3)<女性は左側のドアから降ろされる時、降りるのを拒むような素振りをしました。「綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃ」とまだ言っていたので、座席にとどまって車内を掃除しようとしていたのか、あるいはそれを口実に逃げようとしているのか、と思いました。それを、男性が腕をつかんで「いいから」と言いました>
※タクシーを降りてホテルに入っていく場面
(供述4)<足元がフラフラで、自分では歩けず、しっかりした意識の無い、へべれけの、完全に酩酊されている状態でした。「綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃ」という様な言葉を言っていましたが、そのままホテル入口へ引っ張られ、「うわーん」と泣き声のような声を上げたのを覚えています>
こうした供述の後、ドアマン氏は以下のように結論づけている。
(供述5)<客観的に見て、これは女性が不本意に連れ込まれていると確信しました>
■ドアマン氏供述で立証できることは?
この供述で立証できることは、伊藤詩織氏はタクシーから直ちに降りることを嫌がったということに過ぎず、ホテルに入る事を直接嫌がったことの立証はできないと思う。タクシー内に吐瀉物があり、女性としてはそのようなものを人目に晒すのは嫌だろうし、自分が吐いたものを片付けずに降りていった礼儀知らずと思われるのも嫌だったのかもしれない。そこで、せめてそれを片付けてからという考えだったが、それを山口氏が片付けをさせずに引っ張っていったので泣き声のような声を上げたという考えは十分に成立する。
そこはドアマン氏も意識しているのかもしれない。供述5で、不本意に連れ込まれていると確信した旨を語っている。しかし、それはドアマン氏の主観に過ぎない。正確に言えば、「タクシー内を清掃したいと言う伊藤氏を、山口氏が強く引っ張り、清掃をさせずにタクシーから下ろし、ホテル入口へ引っ張られ泣き声のような声を上げた」という客観的な状況を見て、主観的に「不本意に連れ込まれていると思った」ということである。
■検面調書が作成されなかった理由
ドアマン氏の供述は員面調書(警察官作成の供述調書)にされ、検察に送られているそうであるが、検面調書は作成された形跡が見当たらないという。この点を週刊新潮は「『検面調書』を取っていない時点で、検察のやる気のなさがわかるというもの」と結論づけている。
しかし、前述のような事情を考えれば検察官がドアマンの調書を作成しなかった理由は、明らかであろう。それは伊藤氏がホテルに入る事を拒否していたという立証には結びつかないからである。そもそも泥酔していた伊藤氏が、そこがホテルである事を認識していたかどうかすら分からない。事実、週刊新潮によると「東京・恵比寿で2軒目までハシゴしたところから意識を失った彼女は、その後タクシーに乗せられた。タクシーはシェラトン都ホテルへ。山口記者の部屋へ連れ込まれ、翌日未明、性行為の最中に目が覚めた」とある。
そうなるとタクシーを降りることは認識しているが、そこがホテルかどうかの認識はなく、とにかく降りる前に吐瀉物を清掃したいという思いだけが強かったのではと考えることに一定の合理性は認められよう。何より伊藤氏の行動は泥酔した人間の行動としては、よくあるタイプのもので、それが取り立ててホテルに入る事を拒否するための行為とは考えにくいように、僕には感じられる。
■ドアマン氏の主観的評価の合理性に疑問
後日、伊藤氏は山口氏に「お疲れ様です」というメールを送ったとされている。そうした事情も合わせて考えると、ドアマン氏が見た客観的な状況に対する主観的な評価の合理性には疑いを挟む余地はある。
これがなぜ、控訴審のカギを握ると考えるのか。週刊新潮編集部の思考経路が分からない。僕は真実は分からないが、少なくともドアマン氏の陳述で山口氏が決定的に不利になるということはないと思う。
ついでに言えば、文章には誤字もある。P20の最下段「逮捕状が発布された」とあるのは「逮捕状が発付された」の間違い。
記事が雑ですよね、週刊新潮さん。
ドアマン氏の供述における伊藤氏の行動について、次のご指摘は同意できます。
「そもそも泥酔していた伊藤氏が、そこがホテルである事を認識していたかどうかすら分からない。」
「タクシー内に吐瀉物があり、女性としてはそのようなものを人目に晒すのは嫌だろうし、自分が吐いたものを片付けずに降りていった礼儀知らずと思われるのも嫌だったのかもしれない。そこで、せめてそれを片付けてからという考えだったが、それを山口氏が片付けをさせずに引っ張っていったので泣き声のような声を上げたという考えは十分に成立する。」
このような状況において、タクシーの同乗者が取る行動は、一般的にはこういったことでしょう。
吐瀉物の清掃については、「私から運転手にお願いしておくから、あなたが心配しなくても大丈夫だ」と説明する。そして「ホテルに到着したので、部屋で体を休めたほうがいい」と説明する。
ドアマン氏の供述によれば、伊藤氏は泥酔してはいても会話が可能な状態でしたが、山口氏は伊藤氏の意思には一切構わず、何の説明もせずに、強引にホテルへと引っ張っています。
また吐瀉物の清掃に関して、山口氏は運転手にチップを渡さず、お詫びもしていません。
ドアマン氏の供述における山口氏の行動は、一般的には考えられない、異様な行動であると思います。ここから考えられるのは、タクシーでホテルに向かうことを伊藤氏は同意しておらず、到着後も同意を得る努力をすべきだとは考えていなかったので、到着後に「これからホテルに宿泊する」と伊藤氏に説明しようとしなかったのではないかということです。
吐瀉物の清掃について、山口氏が伊藤氏に何のフォローもせず、運転手にお詫びもしなかったのは、同意を得ないままホテルに引っ張っていくことに精一杯で、他の事に気を回す余裕がなかったからでしょう。
ホテルに向かう同意が得られていないことは、タクシー運転手の証言にもあります。
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/12191530/?all=1
「女性は何度か“駅の近くで降ろしてください”と訴えたのですが、男性が“何もしないから。ホテルに行って”と。」
伊藤氏が駅に向かう意向であったのに、それを遮ってホテルに向かったのですから、ホテルに宿泊させるに際しては、「あなたの今の状態では電車で帰宅するのは無理だから、ホテルで休みなさい。私は部屋をとってあるが、あなたにも部屋をとろうか。」と説明して、伊藤氏の気持ちを落ち着かせてから、タクシーを降車するのが当然でしょう。
吐瀉物の清掃について運転手に何も告げないまま、これからどうするかを伊藤氏に説明をしないまま、一分一秒を争うかのようにホテルに引っ張っていく必然性は、無いのではないでしょうか。
>>Flint_Lock様
いただいたご意見のように全て裁判所が認定したとしても、タクシー降りて、ホテルかどうか認識できていない場所に入ることについて合意がなかったというところまででしょう。
室内で合意に達したという立証を被告側がしてきたら、そこへの反論にはなりません。
一般的にはこうだと縷々書かれていますが、それを裁判所がそう考える保証はないし本件では違う受け取り方をするかもしれません。ご自身がそう考えるのは自由ですが、裁判官が納得するかどうかは別問題だと思います。
そもそも伊藤氏側がそれを証拠として出すかどうかも分かりませんしね。ご苦労様でした。
私は純粋にこのドアマンに対して疑問を持っています。このドアマンの証言が事実であるならば「ドアマン人生で忘れられない」程衝撃的な光景だったにも関わらず何故「どうかされましたか?」や「何かお手伝いしましょうか?」等と声がけをしなかったのか?もし彼が声をかけられない状況であるなら他のホテルマンにこの異常な状況を周知しなかったのか?山口氏はこのホテルを定期的に使っていたと証言しているが、それであれば顔と名前を覚えているホテルマンも少なくないだろう。証言の内容が周知されていれば監視カメラや巡回などで山口氏を警戒して何か不審な事があれば速やかに対応できるように対策を取る事もできたでしょう。もしかしたらこの事件を防げたかもしれない。それなのにあの異常な光景を目にして突っ立っていただけのこのドアマンはホスピタリティ業界に携わっていた私から見ると業務を放棄していると言っても過言でないくらい理解不能な人物に思えます。
>>匿名様
コメントをありがとうございます。さすが、その道のプロの目は鋭いと思いました。ホスピタリティ業界の方なら、それは声をかけますよね。何で傍観者になっているのか、と。
二審で伊藤氏側は陳述書を出してくるのか分かりませんが、検面調書が取られていないということは検察官も重視していなかったことの証左ですから、裁判の帰趨にはあまり影響しないかもしれませんね。何れにせよ、伊藤氏側の証拠は何だか胡散臭いと思わせるものが多いというのが僕のが率直な感想です。
ドアマンの供述調書が結審前に出てきたということですが、「不起訴処分」となった事案の証拠を警察(検察)から簡単に手に入れることは可能なのでしょうか。
供述内容がそれまで公にされていないものなのであれば、弁護士と「打ち合わせ」して陳述書を作成することはできますよね。
論点がずれていたら申し訳ありません。ただ、こんなタイミングよく結審前に当事の目撃者が現れるのか、また、上の方が仰っているように、業務放棄にも近いドアマンの対応にも疑問を感じます。
>>匿名様
詳細は分かりませんが、伊藤氏の弁護団が提出しようとした証拠は「陳述書」のようです。員面調書を手に入れて、それを出したわけではないのでしょう。何らかの方法で員面調書の存在を知って、弁護団がドアマンにアプローチして陳述書としてまとめたのだと思います。
不起訴となった事案の供述調書について、民事裁判の裁判所を通して,警察や検察に開示請求をすることが可能ということなので、今後の裁判では供述調書の開示請求をしてもらえたらと思いますね。
https://www.mc-law.jp/kigyohomu/2621/
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji23.html
>>Flint_Lock様
今後の展開は分かりませんが、ドアマンの陳述書が重要なポイントということであれば、本人を証人として呼ぶこともあるのかもしれませんね。僕はあまり重要ではないのでは…という考えで文章を書いていますから、その必要はあるのかは多少、疑問視しています。